父の罠は☆の伸び代

1 父の罠に笑顔でかかる☆

 

 

結核療養中のお父さんはいつも家にいた

 

出かけたくても4・5才の想像を絶するお転婆を家に置き去りにできない

 

そこで

 

父  ☆、お父さんと遊ぼう

エ  うん (満面の笑み)

父  そう、一緒に同じに歩こう

 

父と手をつないで ランランラ・・・

身長174センチの父の歩幅で飛ぶ

力一杯飛ぶ

右足も左足もお父さんと一緒

手をつないで飛ぶのはすごく楽しい

日に日に距離が伸びる

 

 

 

今日はお父さんとお出かけ

喜び勇んで手をつなぐ

 

どんどん歩くお父さんに手を引かれて飛ぶ

 

お父さんの足だけを視ながら飛ぶ

 

疲れてもスピードは落ちない。

無口で必死になる

 

ぶら下がるようになってもスピードは落ちない

 

目的地に着くころにはへとへとで元気に遊ぶ力などなくなっていた

 

 

お邪魔した家でお菓子を食べた記憶がないほど疲れ切っていた。

 

 

お邪魔虫をおとなしくさせる罠に度ハマリした結果である

 

 

 

 

父の罠に懲りずにかかる☆

 

父とお出かけの帰りは別の道

 

しっかり手をつないでゆっくり歩く

 

右手に木がたくさん植えてある魅力的な場所があった

父は手前で止まる

とっても真剣な声で

 

父  ここはキツネがいて見張っているから視てはいけない。前だけ見て走って通り過ぎるように

 

父は走って通り過ぎる

 

しっかり脅された私は そこがおいなりさんだって知ったのは大人になってからで 子供時代はちらとも視ず脇を走り抜けていた

 

木があって石の狐さんがいたら ☆は入り浸るにきまっているのだ

 

当然のようにつながったよそサマのお庭たちもテリトリーになる

 

探しに来るのが面倒

 

父は自身の自由のために時間をかけて☆を罠にかけて捕縛する

 

父とのお出かけも回をかさねると☆には体力がつく

少々の遠回りくらいではへたばらない

道もすっかり覚えられてほっておいても家に帰れるくらいになってしまった

父は早めに歩いて目的地に着くと

ほら 見てごらん と ポケットからチョークを出した

訪問先の玄関先に大きな枠を描く

☆は輝く

父は チョークを 宝物のように☆に持たせた

この枠の中になら絵を描いていいよ

こすれば消えるから何度でも画ける

枠から絶対出ないように言いつける

父が碁を打って出てくるまで☆はチョークの虜だ

翌日から我が家の玄関内も外も☆のお絵かき場になった

チョークなら教室(我が家は学習塾)にいくらでもある

近い未来にチョークの箱から 一本 また一本 と 消えることになる

☆は罠をかけた父より困らせる天才である

 

父は減りの遅い蝋石を買ってくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しもやけのあと

☆の手足にはしもやけのあとがある

ハイハイの頃というのだから1才のふゆだろう

 

母は語った

母は毎日薪ストーブに薪をいっぱい入れて仕事に出かけた

☆はストーブの前に寝かされた

薪がなくなり部屋が冷えると☆ははって部屋の隅で丸くなった

その繰り返しで手足のしもやけは崩れたという

父は結核療養中で家にいるのにメンドウだと薪を足さない

真っ暗な部屋に帰った母は「今日もか」と部屋の隅から☆を回収し暖める

一日一回くらい暖めてもどうにもならなかった

 

父も病気で辛かったのだろう、きっと、たぶん

そんな状態だからだろう、☆は母の勤める学校の用務員室にしょっちゅう預けられたらしい

 

しもやけのあとはテカテカツルツルでちっともいやじゃない

他人は気持ち悪いとか目立つとか言うけれど

☆は意味がわからない

肌よりきれいに光って見えるんだから問題ない

学校で指摘されると☆は「見つけててくれた」と得意げだった

「コレ しもやけのあとなんだよ」

「もっと見て」の勢いだった

72才の今でも輝くワンポイントだ

 

今更ながらおもう 「いい性格してたなぁ」と

 

フと気になる

あのころ姉は何処で何していたのだろうか 寒い思いはしていなかっただろうか

 

 

☆は父にとって「忌み子」だが=しかながなく我が子=

母にとって=やっかいで手がかかるけど捨てておけない我が子=

兄弟はどうだろうか

☆は兄弟から邪魔にされた記憶がない 迷惑かけた記憶はいくらでもあるけど

 

そうだ どうせなら 名前「いみ子」もいいんじゃネ

もちろん「み」の「美」は却下 

意無子、不味子 捨己子 いいじゃない♪

☆は忘れることが苦手なひねくれ者である

 

 

 

 

 

 

母が薪を割った姿は記憶にあるのでかなり長く薪ストーブを使っていたのだろう

むぎこがし

☆の家のおばあさんとは父の母の妹に当たるらしい

あるとき☆はおばあさんに呼ばれた

麦こがしをごちそうになった

さらさらとした粉をコップに入れてお湯をそそぐ

「むぎこがし」とおそわっていただく

甘い

☆はすっかり気に入った

☆はうれしくて母に報告

「おばあさんに麦こがしという甘い飲み物のをいただいた」

母 「練ってた?」

☆ 「さらさらの粉にお湯を入れた」

母のつぶやきによると

麦こがしの入った香り付き砂糖湯らしい

姉にはむぎこがしを上げてるのにと小声

母はお見通しだった 少し悲しそうだった

姉が貰える「むぎこがし」はどんなものだろう

でも、むぎこがしは甘くておいしかった 問題ない

☆は見えないから意地悪されても相手が意地悪に努力するほどダメージはないのだ

藍色の海 浄土ヶ浜

初めて海につれてってもらったのは小学校入学前の夏 

場所は岩手県宮古市の浄土ヶ浜

家族全員と父の友人の数家族

家族遠足を一緒にする、という企画らしく子供らは家族単位で行動した

 

盛岡駅は家から徒歩で子供の足でも20分くらい

山田線に乗り延々山の中を進む

トンネルの数も数え切れない

  そう、数えていたら何もできない

前のほうから「トンネル」と言う声が聞こえると一斉に窓を閉める 

トンネルを出て窓を開けると またすぐ閉める

それだけでも十分楽しい

 

いきなり後ろに走るのもすごく楽しい→スイッチバック

 

海そのものも初めて

白い石で囲まれた大きな水溜り

緑っぽい水が静かに寄せる

それが海だと思った。

 

浄土ヶ浜は内海と外海が岩ひとつでまるで違う

内海は子供をあそばせるにはとても安心できる場所で

姉一人の子守りでカニを追いかけて遊んだ。

ちっこいのに、はさまれるととても痛い。

姉は上手に捕まえるのに私は上手くいかない

 

ほかの人はどこへ行ったんだろう

などと考えはしない

姉のいる場所が私の場所

 

カニに飽きたころお呼ばれた

大人のいるところに行くらしい

 

まぶしいほど白い岩から外海に出るには

ものすごい大きなゴロゴロの石を超えなければならない

こういう石を岩という、と教わった

手を貸す大人のクロウなど知る必要もない

板のような石にへばりついて上る

 

その石を超えたところは別世界

なのだが まだ気が付かない

 

父に教えられたほうを見ると離れたところに母が立っていた。

ごつごつした大きな岩の上に青い空をバックにたっている

風邪にスカートの裾と髪の毛がゆれていた

 

そのまま額に入れたい景色に感動して突っ立った。

 

空が果てしない

視野いっぱいに空と岩

その真中で 適度な風に吹かれて優しくゆれる母

 

当然

私もあそこに立ちたい

 

危ないからと近づくことも許されない。

 

あまりうるさいのか もうひとつ高いところまで

上げてくれた。

 

言葉がない

あまりの感動に動くこともできない

 

海 これが 海

 

外海の広さに圧倒された

空とつながるまでずーっと海だ

紺色と言うか藍色に近い波がうねり 

岩にあったって砕ける真っ白なしぶき

 

これは きれい では足りない

美しい 

 

海の色は 藍色か紺色で 

波は白く砕けてレースのようにひろがる

空は海より淡くみずいろ

 

最高に美しい海だった

 

幼稚園 8 神様のタマゴ

二度と幼稚園には行かないと誓ったくらい嫌いな幼稚園にも
そうそう悪くない思い出もある
キンダーブックが届き、ボロボロになるまで見た
 
自転車にはねられて休んでいたある日 
父;、幼稚園に行かないか
;幼稚園は行かない
父;タマゴがもらえるよ
;タマゴならウチにたくさんある
父;ウチの卵は白いけど 色のついたタマゴがもらえるよ
;どんな色
父;赤や青や桃色
 
の頭は色とりどりの卵でいっぱいになる
 
しかし、それが日曜だと知って 
;教会は行かない
父;教会は行かなくていい、

タマゴを貰ったら帰ってくればいい

;じゃあ、行く
 
はさかなだ タマゴに釣られるあわれなさかな
 
いざ行った幼稚園
登校拒否生徒には 先生はやさしいと相場が決まっている
誰と話した記憶もなく 何をしたかも覚えていない
青いタマゴをもらって帰った
 
青いタマゴはゆで卵だそうだ
手の中で転がしては色を楽しむ
 
しばらく眺めては 手に中で転がす
 
痛むから食べなさいといわれたって 
なかなか決心がつかない
 
青いタマゴは 何度見ても変わることはない
見あきるほど眺めて やっと食べる決心がついた
 
・・・・・・・・
普通のタマゴだ
 
やっぱり神様はうそつきだ
・・・・・・・・・
 
中まで真っ青だったら きもちわるいだろ・・


それは大人の 常識

幼稚園 7 約束は嘘つきの始まり

大人はずるい
「約束」というモノをきっちり教えておきながら
「約束」をタテにおどす
理不尽な約束は「うそつき」の原点だ
・・・・・・・・・・

幼稚園は世間を知らない純粋な心にはちょっと刺激がありすぎた

直接のきっかけは全く記憶にない
七夕は行ったのだから
夏休みが終わってから行かなくなったのではないだろうか
いつしか幼稚園には行かなくなっていた
まぁ 自然の成り行きというもので
わざわざみじめになるような環境に行きたいわけがない

幼稚園の担任は 一人でも生徒が減っては困のか
毎月「キンダーブック」をもって集金にやってくる
母がやめます というと父を呼び出し
やめないように交渉する
父はそのうち面倒になったのか、
家にいられては困るからやめさせたくないのか
子どもの知るところではない

毎月バカ高の「キンダーブック」が届く

しょっちゅう繰り返す やめる やめない も
いいかげん担任だってイヤになったのだろうか

担任は☆と直接話がしたいと言って動かない
当然☆は会いたくないから断る
それでも頑張って帰らない

それを何度も繰り返す


ある日、いつまでも居座る先生にとうとう母が折れた

母;先生が会いたいと言って帰らないから出て行きなさい
☆;会いたくない
母;出て行って自分ではっきり決めなさい
そうしないといつまでも帰らないよ。
母は☆の味方だ、よし。

先生;幼稚園にいらっしゃい
☆;・・・・・
先生;幼稚園はたのしいから
☆;・・・・・
先生;明日来ますね
☆;いかない
先生;どうして、明日は○○があって・・・
☆;いかない
先生;くればたのしいから
☆;もういかない
先生;ね、待っているから 来るって約束して
☆;やだ

行くという約束だけはどうしてもするわけに行かない
それだけははっきり断らないと
「約束したでしょう」と うそつきだといわれる
約束を破ると神様がどうのこうの
神様はいじめることしかしない

軽はずみな約束がどういう結果を生むか
教えたのはあなたでしょう
明日も来る と約束させて
毎日毎朝シールが貼れないと叱る

下校時の約束と 朝のお叱り
約束さえしなければ 行かなくてもよい
約束さえしなければ 叱られることもない

さかなじゃない 餌なんかで釣られるものか
先生とは ぜーったい 約束しない

幼稚園 6 父の魔法1 紙の不思議

楽しくない思い出ばかりの幼稚園で
たった一度だけ 良かったことがある

正確には幼稚園が良かったのではない
・・・・・・・・・・

七夕飾りを作る日がきた
いろんな飾りをつくったらしい

そのころには心も抵抗しなくなっていた。
しなさいといわれたことをするだけ
みんなが笹を囲んで飾っていても
☆には関係ない 大きなささを見て
それだけですごいと思うようになっていた
さわってみたいと思うことも 近づくことも
自分のすることではない
ただ部屋の隅に立っていればいい
うらやましいという思いの記憶すらない

部屋には大きな笹がざわざわしていた
子供たちはその下で遊んでいる
遠めに眺めながら、家で飾ることを考えていた

幼稚園が☆に求め、教育したことは
目立たないこと 邪魔にならないこと
自分が邪魔な存在だと自覚すること

色とりどりの 山のような色紙
☆は黄色が好きだ けど 関係ない

教わったことは
与えられた青い色紙で輪をつなげなる方法と
与えられた青と桃色の三角を交互に糊付けする
それが☆のすること
☆の短冊は先生がつけたのだろう

そもそも☆の短冊は存在しないのかもしれない

だって自分で飾らないのだから

それでも飾り作りは楽しい
紙が立体になるのはたいへん面白かった

家に帰って父に紙をもらった
父は学習塾をしていたので西洋紙ならいくらでもある

そして父は

☆がおとなしく夢中になることはとても丁寧に教える

長方形の西洋紙の一端を三角に折り、
はみ出したところを切ると正方形になる
すばらしい! これならいくらでも折り紙がつくれる
父の仕事は丁寧で仕上がりがきれいだ
さっそく☆も挑戦する
上手くはいかないがうれしい

その紙をさらに小さくし 輪を作った
父はつなげないでどんどん輪を作る
輪はふわふわはねながら山になっていく
もう見るのに夢中だ

次に別な紙で山になった紙をつなげ始めた
なんと効率の良いこと
一緒になってつなげた

父は☆が軌道に乗ると 正方形を作った紙の
残りの部分を細く切り、ひねって輪を作った

魔法だ !
紙の輪は生きているようだ すばらしい !
それもつないでながーい飾りができた

父は新しい紙を取り出し
魔法を見せてくれるという

父;ここに紙が一枚
☆;かみがいちまい
父;これを真四角に切る
☆;うんうん
父;これを三角に折る
☆;さんかくにおる
父;もう一回三角に折る
☆;もういっかいさんかくにおる
父;またまた三角に折る
☆;ちっちゃくなりました
父;さて ハサミでチョン
☆;ちょん
父;こちらもチョン
☆;ちょん
父;この辺も
☆;ちょん
父;最後に 魔法の息をかけて ふーッ
☆;ふーっ

もったいぶって丁寧に開いた父の手からは
母が編むレースのような美しい模様が出てきた

すっかり魔法にかかった☆は とりこである
真四角を作るために三角にエネルギーを注ぎ
美しい模様にするために ハサミを使いこなすべく
一生懸命練習した

魔法の 「ふーっ」 もちろん忘れない

父が三角を選んで、なおかつ
面白おかしくしたのには理由があるわけで
後からおもえば見えてくる

西洋紙を使う以上 正方形はジマエになる
☆が紙遊びをしたいというたびにいちいち
やらされてはたまったものではない
それに飾りでは色紙がほしくなる、間違いない
おまけに立体のゴミが山とでる
この遊びなら家にある紙で足りるし、いちおう芸術作品だ

父の魔法にたやすくかかり
そっくり吸収した姉にも引っかかり

それで楽しかった

七夕飾りはどうなった??

幼稚園 5 教会は地獄

キリスト教の幼稚園だったので日曜学校がある
入園してすぐに行くわけではなく
これもなれてから なのだろう
・・・・・・・・

初めて日曜学校に行く日
姉が休みだというのに私は出かけた

いつものように玄関を入り部屋に行く
全員並ばされて
まだ足を踏み入れたことのない、
暗い廊下に連れて行かれた。

瞳孔が動かないから(そんなことはもちろん知らない)
暗いところでは足元が見えない
おまけに床ではなく 渡り廊下ですのこがひいてある
平らとわかっていればいくらでも歩けるのだが
すのこは経験がない
乗って安全だという認識がない
その上 すのこの高さがわからない
どのくらい足を上げたら上手く乗れるかがわからない

こわい

行列はまた 私で ストップしてしまう
叱られて こわごわ なんとか前に進んだ
少し行くとすのこが切れて 次のすのこに移らなくてはならない

また止まる
また叱られる

数回繰り返してやっとすのこになれてきた

教会に入る入り口はとても高さがあるらしい
先生は先に立って教会に入っていった
園児はピョンピョン 先生の跡を追いかけ入っていく
うしろの園児たちが追い越して消えていく
とうとう おいていかれた

どうにも怖くて前に行けない
すのこからの距離も高さもわからない
暗い廊下に たった一人残って座り込む

敷居が高い? 意味が違う・ヨネ!

担任が来て引っ張られて教会に入った
どうやって上がったか覚えていない
次から次と新しいことで
いちいち通り過ぎたことにぐずぐずしていられない

 

教会は美しかった

暗い廊下から一歩入ると そこは明るく
白っぽい床に赤いじゅうたんが長くのびて
椅子がたくさん並んでいた
天井は高く 上まで窓がある

天井近くのガラスには色がついている

色ガラスって初めて見た

正面(祭壇)は見えないけれども なにやらまぶしく美しい

美しい

美しさに見とれていると現実につかまれた
強く引っ張られ 椅子に座らされる

何にでも興味があって
先ほどの敷居の高さは もうどうでも良かった
記憶から消えないからずっとあとで振り返るので
常に 今 だけで忙しい

延々とつまらない時間が過ぎて
園児の名前が次々と呼ばれ
呼ばれた園児は前に行き 何かをする

それを一人でしなければならない

とたんに不安になった
その不安は今でも震えるほど覚えている
その後の屈辱とともに忘れられない思い出だ

名前が呼ばれて 立った
どこに行ったらいいかわからない
ただただ 立つ
もう一度呼ばれる
動けない

前に来るようにいわれて 前のほうに行く
美しい赤いじゅうたんの上を歩いているのに
そのじゅうたんはどす黒く先がない
イスのないところまで出た
たった一人立って 何をしたらいいかわからない

ただただ時間が流れる
叱られる時間を待っている
祭壇は 相変わらず見える距離ではない
ただピカピカ光っている
どっちをみても誰も 声を くれない

手を合わせて膝を突きなさい
とうとうどこからか声がした
いわれるままやったのだろう
牧師が 正確には 衣が近づいてきた
他人の映像のような記憶だ
何が行われたのか知らない
何の言葉も記憶にない

ただ どす黒いじゅうたんと 縁取りの黄色い線
石のような世界
そのうちに席に戻るようにいわれた

自分の席がどこにあるかわからない
うしろを振り返り 一歩すすんでは 止まる

もしかしたら ここ?
誰も何も言わない

じゃ ここかもしれない
シーン

次かもしれない
・・・・・

一列ごとに止まっては誰かが止めてくれるのを期待した
期待は外れ 誰も声を掛けてくれない

教会はバカ広く 冷たい 地獄だ

二度と来ない!!

一列ごとに止まっては待つ
また止まっては待つ
いくら繰り返しても 誰も声をかけてくれない
うしろのドアが見えてきた

例のごとく担任が 待ってましたと、かどうかは定かでないが
悪態をつきながら引っ張りに来た
「自分の席くらいちゃんと覚えなさい
私が恥ずかしい思いをさせられます」
イスの列まで連れて行き さっさと戻ってしまった

この列の何処に座ったらいい?

再び現れた先生、今度は はっきりと
「どうしようもない生徒を持つと恥ずかしいわ」」
大勢の前で馬鹿にされ 引っ張られて席につく

自分の席も覚えられない バカな生徒を持たされ
恥じをかかされる生徒にうんざりなのだ

それっきり二度と教会には行かなかった

もしかしたら 何回かは家を出た
日曜日は幼稚園に行かなければならないと
誰かに話した覚えがある
そうだとしても教会には入っていない
外で遊んで時間をつぶした記憶が何度もある

そのころから親に内緒でサボることをしていた
父に知れたところで知ったこっちゃない

☆の決意は固い

父だろうが母だろうが 先生だろうが 

☆を教会につれて行くことはできなかったであろう

幼稚園 4 シール

いつの時代もシールというものは魅力的だ
年をとっても 封筒の裏に貼るシールを探すのが楽しい
ついつい、箱いっぱいのシールを抱え込んでしまう
・・・・・・・・・・・

みんなが幼稚園になれてくると持ち物検査が始まった

ハンカチ・ちり紙だけだったカナ?

大きな模造紙が2枚張り出された
縦に園児の名前 横にひと月分の日付が書いてある

朝登園したら先生に持ち物を見せて合格したら自分でシールを貼る
ハンカチが青 すんだら隣りのちり紙、ピンクだ
名前は五十音順で 私はほぼ真中あたり

「どこで止まってるの」
「☆ちゃん」
「またぁ、早くしないとみんなが待ってるんだから
あなた後。みんな先に貼りましょう」

結局早く登園しても シールは貼れない

一番上にしてくれればできるのに
「上にして」
「あいうえおの順番はとても大事だからダメです」
いざ、見つけた、瞬間に 横から先生が貼ってしまう

自分でシールを貼りたい

 

60年以上たった今でも根に持っている

邪魔されない今は、シール集めと貼るのが楽しい

幼稚園 3 禁所区、ピアノのうしろ 

当時の視力は0.02くらい。
人から見ればめくらかも知れない、
でも、自分はほかの人を知らない、見える世界を知らない、
自分の視力内の世界が「見える世界」
ほかの人と違うなんて思ってみたこともない

幼稚園とは 普通でない ことを身体で教え込ませるところだ
・・・・・・・・・

トイレの場所がわかったら幼稚園の生活も変わった

トイレの場所がわからなかっただけだから
何ら問題があると思っていないし
先生にいじめられているという意識もまだない
いじめ そのものの存在を知らないのだから
そのころはいじけることも悪びれることもなかった。
ただ 忘れられず 記憶に深く残っていく

「めくらがきた」と迎えられた幼稚園
担当の先生も一緒にはやし立てた仲間だろう (無言で)

制服というものは 特徴を消してしまう
何日たっても 先生と生徒の区別しかつかない

鬼ごっこやかくれんぼもするようになった。
たくさんの同世代と駆け回るのは楽しい
誰が誰だか全くわからないけれどかまわない
運動は得意で走ることは特にだーい好きだ

ただただ一人、走り回っていた
要するに相手にされていないのだが
☆本人はそれにさえ気がついていない
鬼ごっこは走り回るだけで大満足で
除外されているとも知らず
つかまらないと思い込んでいるのだから問題は全くない
かくれんぼもいつも見つからないでおわる
いつも満足だ

ところが 先生はかくれんぼで私も入れるように指示した。
☆本人はもともと仲間に入っているつもりで
見つからないうちに時間が来ると思っていたから
取り立てて仲間にすることもないと思うのだが
みんなの仲間にするために、わざわざ☆を鬼にした。

10数えたら探しましょう

大きな声で10数えた
☆の声は良く響く

大勢だから いくら見えなくても見つけられるものだ
・・かくれんぼは好きな遊びだし
鬼は誰もいない障害物のない大部屋を思いっきり走る
問題がなければ実に愉快だ。

子供等はピアノの後ろだって行ってかまわない
普通に考えればあたりまえの空間だ
ところが☆は 「見えなくなるところ」
には行かないように釘を刺されている。

ピアノのうしろは禁所Sランクだ
「良い子」の☆は いいつけをまもって
姿が隠れるピアノの後ろには 行ったことがない

大勢の子供がピアノの後ろでひしめいている
☆が行ってはいけない場所に隠れるのだ
こまってしまった
いることはわかっているのに踏み込めない

「まだみつからないの?」
「だってピアノの後ろだもん」
「えっ?」
「先生が行っちゃダメだって行ったから」
「あらあら たくさん見つけられなかったね
時間だから終わりにしましょう」
禁止は解かない

☆の大負けで かくれんぼはおしまい
そのまま歌の時間になった
歌は大好きだが ピアノのうしろが気になって仕方がない
自分だけが行ってはならない場所 なぜ、

うしろに行こう
約束を破る一大決心だ
同日 放課後?みんなが帰ったあと戻って忍び込んだ
と言っても 今と違ってどこもかしこも
開けっ放しだから 普通に入ったのです !

ちょっと暗めの部屋、人がいないととてつもなく広く感ずる
すみのほうに 真っ黒いピアノがある
鍵盤の線より踏み込んだことはない
恐る恐るピアノの後ろに行ってみた。
ドキドキ 不安でならない
何しろ 約束を破るのだ

取り立てるほどのこともない 床があるだけだった

黒い影の真中に 黙って立ってみる
ひんやりした空間

寒い
さびしい
ここはいやだ

何かに追われる気がして走って帰った

幼稚園に通った残りの日々
かくれんぼや鬼ごっこはどうなったのだろう
見つけるためには 線を越えたのだろうか
やはり禁止区域だったのだろうか 記憶にない

たぶん、☆は鬼を卒業したのだろう