当時の視力は0.02くらい。
人から見ればめくらかも知れない、
でも、自分はほかの人を知らない、見える世界を知らない、
自分の視力内の世界が「見える世界」
ほかの人と違うなんて思ってみたこともない
幼稚園とは 普通でない ことを身体で教え込ませるところだ
・・・・・・・・・
トイレの場所がわかったら幼稚園の生活も変わった
トイレの場所がわからなかっただけだから
何ら問題があると思っていないし
先生にいじめられているという意識もまだない
いじめ そのものの存在を知らないのだから
そのころはいじけることも悪びれることもなかった。
ただ 忘れられず 記憶に深く残っていく
「めくらがきた」と迎えられた幼稚園
担当の先生も一緒にはやし立てた仲間だろう (無言で)
制服というものは 特徴を消してしまう
何日たっても 先生と生徒の区別しかつかない
鬼ごっこやかくれんぼもするようになった。
たくさんの同世代と駆け回るのは楽しい
誰が誰だか全くわからないけれどかまわない
運動は得意で走ることは特にだーい好きだ
ただただ一人、走り回っていた
要するに相手にされていないのだが
☆本人はそれにさえ気がついていない
鬼ごっこは走り回るだけで大満足で
除外されているとも知らず
つかまらないと思い込んでいるのだから問題は全くない
かくれんぼもいつも見つからないでおわる
いつも満足だ
ところが 先生はかくれんぼで私も入れるように指示した。
☆本人はもともと仲間に入っているつもりで
見つからないうちに時間が来ると思っていたから
取り立てて仲間にすることもないと思うのだが
みんなの仲間にするために、わざわざ☆を鬼にした。
10数えたら探しましょう
大きな声で10数えた
☆の声は良く響く
大勢だから いくら見えなくても見つけられるものだ
・・かくれんぼは好きな遊びだし
鬼は誰もいない障害物のない大部屋を思いっきり走る
問題がなければ実に愉快だ。
子供等はピアノの後ろだって行ってかまわない
普通に考えればあたりまえの空間だ
ところが☆は 「見えなくなるところ」
には行かないように釘を刺されている。
ピアノのうしろは禁所Sランクだ
「良い子」の☆は いいつけをまもって
姿が隠れるピアノの後ろには 行ったことがない
大勢の子供がピアノの後ろでひしめいている
☆が行ってはいけない場所に隠れるのだ
こまってしまった
いることはわかっているのに踏み込めない
「まだみつからないの?」
「だってピアノの後ろだもん」
「えっ?」
「先生が行っちゃダメだって行ったから」
「あらあら たくさん見つけられなかったね
時間だから終わりにしましょう」
禁止は解かない
☆の大負けで かくれんぼはおしまい
そのまま歌の時間になった
歌は大好きだが ピアノのうしろが気になって仕方がない
自分だけが行ってはならない場所 なぜ、
うしろに行こう
約束を破る一大決心だ
同日 放課後?みんなが帰ったあと戻って忍び込んだ
と言っても 今と違ってどこもかしこも
開けっ放しだから 普通に入ったのです !
ちょっと暗めの部屋、人がいないととてつもなく広く感ずる
すみのほうに 真っ黒いピアノがある
鍵盤の線より踏み込んだことはない
恐る恐るピアノの後ろに行ってみた。
ドキドキ 不安でならない
何しろ 約束を破るのだ
取り立てるほどのこともない 床があるだけだった
黒い影の真中に 黙って立ってみる
ひんやりした空間
寒い
さびしい
ここはいやだ
何かに追われる気がして走って帰った
幼稚園に通った残りの日々
かくれんぼや鬼ごっこはどうなったのだろう
見つけるためには 線を越えたのだろうか
やはり禁止区域だったのだろうか 記憶にない
たぶん、☆は鬼を卒業したのだろう