幼稚園 3 禁所区、ピアノのうしろ 

当時の視力は0.02くらい。
人から見ればめくらかも知れない、
でも、自分はほかの人を知らない、見える世界を知らない、
自分の視力内の世界が「見える世界」
ほかの人と違うなんて思ってみたこともない

幼稚園とは 普通でない ことを身体で教え込ませるところだ
・・・・・・・・・

トイレの場所がわかったら幼稚園の生活も変わった

トイレの場所がわからなかっただけだから
何ら問題があると思っていないし
先生にいじめられているという意識もまだない
いじめ そのものの存在を知らないのだから
そのころはいじけることも悪びれることもなかった。
ただ 忘れられず 記憶に深く残っていく

「めくらがきた」と迎えられた幼稚園
担当の先生も一緒にはやし立てた仲間だろう (無言で)

制服というものは 特徴を消してしまう
何日たっても 先生と生徒の区別しかつかない

鬼ごっこやかくれんぼもするようになった。
たくさんの同世代と駆け回るのは楽しい
誰が誰だか全くわからないけれどかまわない
運動は得意で走ることは特にだーい好きだ

ただただ一人、走り回っていた
要するに相手にされていないのだが
☆本人はそれにさえ気がついていない
鬼ごっこは走り回るだけで大満足で
除外されているとも知らず
つかまらないと思い込んでいるのだから問題は全くない
かくれんぼもいつも見つからないでおわる
いつも満足だ

ところが 先生はかくれんぼで私も入れるように指示した。
☆本人はもともと仲間に入っているつもりで
見つからないうちに時間が来ると思っていたから
取り立てて仲間にすることもないと思うのだが
みんなの仲間にするために、わざわざ☆を鬼にした。

10数えたら探しましょう

大きな声で10数えた
☆の声は良く響く

大勢だから いくら見えなくても見つけられるものだ
・・かくれんぼは好きな遊びだし
鬼は誰もいない障害物のない大部屋を思いっきり走る
問題がなければ実に愉快だ。

子供等はピアノの後ろだって行ってかまわない
普通に考えればあたりまえの空間だ
ところが☆は 「見えなくなるところ」
には行かないように釘を刺されている。

ピアノのうしろは禁所Sランクだ
「良い子」の☆は いいつけをまもって
姿が隠れるピアノの後ろには 行ったことがない

大勢の子供がピアノの後ろでひしめいている
☆が行ってはいけない場所に隠れるのだ
こまってしまった
いることはわかっているのに踏み込めない

「まだみつからないの?」
「だってピアノの後ろだもん」
「えっ?」
「先生が行っちゃダメだって行ったから」
「あらあら たくさん見つけられなかったね
時間だから終わりにしましょう」
禁止は解かない

☆の大負けで かくれんぼはおしまい
そのまま歌の時間になった
歌は大好きだが ピアノのうしろが気になって仕方がない
自分だけが行ってはならない場所 なぜ、

うしろに行こう
約束を破る一大決心だ
同日 放課後?みんなが帰ったあと戻って忍び込んだ
と言っても 今と違ってどこもかしこも
開けっ放しだから 普通に入ったのです !

ちょっと暗めの部屋、人がいないととてつもなく広く感ずる
すみのほうに 真っ黒いピアノがある
鍵盤の線より踏み込んだことはない
恐る恐るピアノの後ろに行ってみた。
ドキドキ 不安でならない
何しろ 約束を破るのだ

取り立てるほどのこともない 床があるだけだった

黒い影の真中に 黙って立ってみる
ひんやりした空間

寒い
さびしい
ここはいやだ

何かに追われる気がして走って帰った

幼稚園に通った残りの日々
かくれんぼや鬼ごっこはどうなったのだろう
見つけるためには 線を越えたのだろうか
やはり禁止区域だったのだろうか 記憶にない

たぶん、☆は鬼を卒業したのだろう

 

 

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