医大 理不尽と生きる知恵 10

第9話 桜ご飯はいただけない

両眼グルグル巻きの状態は退屈でながーい、時間

だったはずなのにそれほどでもない

目が開けられるだけで精神は落ち着く

左眼はガーゼなどが入っていないし、目が開く空間があった

外の明るさで包帯が見える

目から5センチも離れていないのでよく見える

包帯の重なり方でできる濃淡模様を眺めていた

 

両眼ふさがれていたのは一日だと思う

翌日には手術した右目に立体にできた眼帯だった たぶん

食事はまだおかゆ、

山盛りの白いおかゆにうめぼしと+?

うめぼしは赤くてきれいだ

おかゆに混ぜてみた。

ああ、なんてきれいなんだろう

桜色に染まったおかゆはいかにも美味しそうだ

その色の美しさに大喜びで

山盛りのおかゆ全部を桜色に染めてしまった

 

つまらないプラスティックの薄緑の器に

もも色の山ができ 桜の花のようだ

ちょうど外はお花見の時期

食べずに美術館賞に浸っていたら叱られた。

看護婦;片付ける時間だから早く食べなさい

仕方が無い。美しい桜の花を一口

☆;まずい

 

見た目とは大違い とてつもなくまずい

桜色のご飯といったら ほら

桜の葉っぱでくるんだ あれ

あれしかないでしょう

見た目がそっくりになったとたん

わたしの頭は桜道明寺になっていた

看護婦;速く食べなさい

☆;いらない

看護婦;食べなかったら見てもらわなくちゃ

☆;?

看護婦;具合は悪くないのね

☆;うん

何を言われているかちんぷんかんぷん

看護婦;だったら速く食べなさい

そういわれたって 吐き出すほどまずい

 

母がやってきた。

看護婦さんになにやら言われたらしく

母;さっさと食べちゃいなさい

☆;美味しくない

母;自分でこんなにしたんでしょう。食べちゃいなさい

☆;そうだけど 美味しくない お母さん食べて

母;あなたの食事でしょう 

☆;まずい

母;自分の責任でしょう

  まずいからって押しつけるものじゃない

   看護婦さんが来るから ガマンして早く食べちゃいなさい

手伝う気はさらさらない と伝わってくる

そんなまずそうなものいらない とも伝わってくる

何しろ一口、口に入れるとムカーッと吐き気が襲う

昼までがんばってどうにかほとんど全部食べずにすんだ。

お昼は美味しくいただいたし

一日中桜餅で頭がいっぱいで ひまな記憶がない

 

食べ具合だけで体調を判断しようというのが間違っている

どうしようもない、 予想外のことだってありうるんだから

あの桜餅風ご飯が 道明寺の味なら

おかわりがほしいくらいだったはず

 

うめぼしのご飯がまずいというより

想像した味とあまりにかけ離れていただけだった

 

桜道明寺色のご飯は二度と作らないけど

「美味しい」梅干も 梅干のおにぎりも好き

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 7

第6話 病院は☆の町

虻につかまって朝の診察が終わると

午後はフリーで思いっきり自由時間

スリッパを履いていけるところは全部自分の町

手術室という牢屋もある

病院探検にサイコウ日よりとなった

 

五階の外科病棟は一日で居場所&隠れ家になった

ほかにもいいところがあるだろう

 

二階の記憶が無いのは入院病室ではなかった、とか

ウロウロ人がたくさん居る、とかで

エレベーターホールから先が:お呼びでなかった:に違いない

 

三階が小児病等 子どもがいるなら友達になろう

聞く話では小児麻痺の子が入院しているらしい

小児麻痺とはどんな病気、怖いとだけ聞いている

ドアが2重になっていて厳重だった

そっと開けて入ってみる

 

シーン

誰もいない

冷たい空気が流れていて物音一つしない

病棟が死んでるようだ

子どもの病室とは思えない音のない世界

 

よく磨かれた薄緑色の床が西日を反射して

まるで氷でできているように光っている

寒気がした

怖くなってそっとドアを閉める

小児麻痺って こわい

 

逃げるように四階に上がる

ここも静かだった

小児病棟のような異様な空気ではないが

ーーーつまらない

ここは内科だった気がするが覚えていない

 

やはり五階がいい。

おじさんたちとお菓子を食べて

夕飯前に階段を走っておなかを減らし

食器の音を聞きつけたら表から部屋に戻る

 

翌日は診察有りか無しか 先生が来たか来なかったのか

☆の知ったことではない

朝からベッドは不在で、平和な一日だった

 

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 6

第5話 知力と体力の向上

手術失敗? 誰にとって?

翌日は 診察室でたっぷり絞られた

もう先生は嫌いになっているから聞く耳も持たない

次の約束など絶対しない

無言が一番
 
わたしの興味は病院という大きな建物に移っていた

退屈なお行儀の時間の後、さっそく行動開始

病室は6階 探検し甲斐がある

まずは裏階段からはじめた

なぜ裏かというと エレベーター前の階段に行く前に

看護婦室(ナースセンター)を通らなくてはならない

見つからないに越したことはないからだ

 

階段は地下から屋上まで同じ物で2色使いだった

クリーム色が奇数階から偶数階へ上がる色

偶数階から奇数階は薄い緑色で

どちらも明るい色でとても優しくいい感じ

等間隔で階段の数も廊下から踊り場 踊り場から廊下まで

全部同じで とても安全だ。

 

当然 運動会

いやーな地下へは いかない

 

六階から一階まで数えながら下りて階段の数を確認し

一階から屋上まで一気に駆け上がる

なれてきたら下りも走る

屋上のドアは鍵がかかっているから出られない
 
すっかり気に入って日課に決めた。

何よりも人がいない

廊下の色も奇数階と偶数階で違うので居場所が自動的にわかる

入院中ここで人と出会ったことは一度もなかった

 

さて、手術の翌々日

定例 午後の診察時間がやってきた

そろそろというときになって抜け出し階段に隠れた

「☆ちゃん 先生が来ましたよ」

返事はおろか どこにもいない

数人の看護婦さんが探しに歩いている

私は踊り場で声の様子に聞き耳を立てていた

そろそろ良かろうと下の階の廊下を通って

表に出て階段を上がった

裏階段はヒミツの場所だから見つかるときは表がいい

計算通り六階についたところで見つかる

 

看護婦;どこに行ってたの 先生帰っちゃたよ

☆;下に行ってた

看護婦;明日はちゃんといなさいよ

約束はイヤだから 無言

 

翌日は昨日通り抜けた

五階の雰囲気が気に入ってウロウロしていると

おじさんが病室に呼び入れてくれて

部屋の人とすっかり仲良くなった

 

外科&整形外科病棟で雰囲気も明るく 賑やかだ

目をひいたのが・・・・→ワクワク目が離れないのは

足を白い包帯でぐるぐる巻きにして伸ばしている姿

ギブスなど見たこともないからすごい足だと思った。

お菓子をいただいておしゃべりして

先生が帰ったころにおいとまをする

 

看護婦;今日もいなくなって。先生今まで待ってたんだから

    また帰っちゃったよ

 

翌日 敵もさる物(者でなくていい)

虻先生 午前中にやってきた

当然叱られる

虻;逃げてばかりだからこんな時間に来なきゃならない

☆;(明日は朝も抜け出そう)

 

医大 理不尽と生きる知恵 5

第4話 約束の行方

やっと来た手術の日

朝ご飯はビスケットが数枚

そんなことはどうでもいい

かえって準備運動みたいでわくわくした
 
今か今かと先生を待つ
 
やっと先生が現れた

虻;こんにちは 元気そうだね

にこにこして ベッドにすわる

並んで腰掛けて 足をぶらぶらさせてお話を聞いた

虻;これから手術しに行くことは知っているよね

 

☆;うん 私 目の手術するんだよね

虻;そうだよ。手術室に行って 手術するんだよ

☆;うん

虻;何にも怖くないから いい子にしててね

☆;ハイ

蛇;泣かないって約束してくれる?

☆;うん。泣かないよ

虻;痛くも何ともないからね

☆;うん

虻;☆ちゃんはいい子だね

☆;うん。・・にこにこ・・

虻;じゃ、先生と一緒に手術室に行こうか

 

ベッドから飛び降りて先生の後についていった

リュックサックがないのが残念

 

手術室は地下にあるが土地が斜めになっていて

エレベーターを降りたところはまだ半分地上で明るい

先生と仲良くエレベーターを降りて手術室へ向かう

手術室には 大きな鉄のような扉があった

異様な雰囲気に思わず立ち止まった

入ったら出られない気がする

 

虻;入って

☆;・・・・仕方がない、ついていく

虻;ここで待っててね

・返事をしなかった・

手術台は高くてよじ登るのにかなり苦労した

登って見ると部屋は暗く ひんやりしている

かなり広いが誰もいない

見たことのない部屋に興味を持って眺めた

広い部屋の中でひときわ目をひくのは真上にある電気

大きなかさの中にたくさんの電球があり、暗く、淡く光っている

電球の数は何度数えても途中でわからなくなる

ベッドに立ち上がって数えていると

?声;危ないからベッドにたたないで

どこからか声が聞えた 誰もいないわけでもなさそうだ
 
見えるものすべて見てしまっても誰も来ない、

広くて薄暗い部屋の高いベッドの上にいると不安になった

帰ろう

ベッドから下りてドアに向かう

さっきの声は止めようとしない

部屋を出ようしたところで見つかった

虻;待ってろといったろう

優しいはずの先生の声

・こわい・

・これは逃げなければ

とっさの判断で逃げ出そうとするがつかまってしまった

 

虻;つれってって

二人の看護婦に引っ張られ、ベッドに載せられた

物言わぬ二人の看護婦にもうひとり加わり、

押さえつけられて無理やりねまきを脱がされた

当然、☆はパニックを起こして抵抗する

さらに人が増えた

大勢に押さえつけられ服を剥ぎ取られ

寝かされて手足を縛られた
 
冷たい 背中が凍りそうに冷たい

出たい

寒い

帰りたい

 

手術が始まる前に 場所を拒否していた

抵抗も空しく手足どころか胴体まで縛られ

身動きできない

それでもメいっぱい抵抗した

そのうちに人が大勢集まってきて

魅力的な電気がパッと明るさを増す

 

☆;あっ!

一瞬電気に気を取られ抵抗を止めた

淡い光を放っていた魅力的な電気が まぶしいほどに輝いた

 

虻;いい子だね

わかっていない

 

電球を数えているといきなり目に枠をはめられた

黒くて大きくて硬い

目が閉じられない

とたんに押さえつけられていることを思い出す

イヤだ 怖い 怖いよ

誰も聞いてくれない。 泣く わめく

 

何かが目に近づいた

先が細くなった銀色の長いものだ

 水晶体がないと 目に近ければ近いほど良く見える。

 自分のまつげなら数えられるくらいに見える。

メスは 遠くにあれば存在すらわからないのに

目に近づけば近づくほど とんがっているのがわかる

視力がなくても 目の前にくれば見えてしまう

 

目に枠をはめるなど想像できるわけない

手術とは切ることだとも全く教えてくれなかった

近づいてくるものが何であるか見当もつかないが

縛り付けて 殺しに来る

さわるな! よるな! イヤだ!

メいっぱいどころか 命がけで抵抗

虻;もっときつく縛れ

先生の声が聞こえる

もっと強く抵抗する

 

強く縛られれば縛られるほど 泣き喚いた
 
虻;泣かないって約束しただろ

  約束を破るのは悪い子だぞ

  おまえが泣いたら手術ができないだろうが

  おとなしくしろ

  どうしようもないヤツだ

 

怒鳴られ 怒鳴られ 怒鳴られて

叱られて 叱られて 叱られて

どんどんきつく縛られて

 

だからどんどん逃げたくなる

なんとしても逃げないといけない

これはもう命の戦いだ

 

ふっと やさしい顔がのぞいた

しずかに そーっと覗き込んだ

パタッと泣き止んでその顔を見返す

白髪混じりのやさしい顔

地獄に仏の気分とはこういうのを言うのだろう

助けてくれると思った

 

「私がやろう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大人になってわかったことだけれども

そのやさしい顔は眼科医長の今泉先生だった

角膜移植の権威で有名な眼科医だ

この医大の看板医だ

そのままやってもらえばよかったのに

斜視の手術を医長がするなどめったにないことで

泣きもうけだったはずなのに

そんなこと知るわけもない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今泉;こんにちは

☆;・・・・・・・・・・

  先生の顔をじっと見る

今泉;やれるかな、泣きすぎてるからな

☆;。。。。。。。。。。

 

メスが近づくと 恐怖がよみがえる

泣き始めるともう止まらない

虻の声が、約束したのにまた泣く と叱る

叱られれば叱られるほど、ますます泣きたくなる

担当、虻の声が聞こえると ムチャックチャ暴れたい

☆;・・うそつきはそっちだ・・

全身全霊の力の限り抵抗して 手術はさせなかった

 

今泉;こんなに泣かれたらもうできない、今日はやめだ

ベッドを取り囲んでいた人たちがいなくなる

虻;手術ができなかったんだから泣きやめ

☆はホッとしてパタっと泣き止んだ

  勝った 

  終わった

虻;おまえが約束を破って泣くから

  手術できなかったじゃないか」

  おまえのせいだ

悪態をついて先生は出て行った

 

私は悪くない

小さな声にだして 言いかえした

自分で部屋に帰ると言うのに 

注射を打たれ 眠らされてしまった

 

絶対に忘れない。

 

手術室までつれてくればこっちのものだ

くらいにしか思っていない

無条件に全面信頼しているから

言われたまま約束するのに

約束を破ったから おまえは悪い子だ

うそつきだ

ダメなヤツだ

最低のヤツだ 

信用できない人間だ

 

それが大人のやり方 ですか

それがお医者様 ですか

自分が信頼を裏切ったことに気づきもしない

子どもの心が壊れたことなんか知ったこっちゃない

 

人形の手術でもしていればいい

 

もう大人は信用しない

先生大嫌いだ

 

医大 理不尽と生きる知恵 4

 

第3話 あめだま

先生はごくごく普通にやさしい先生だった

お兄さんのようではない

:あめだま:を持ったおじさん というところだろうか

 

診察が終わると話しはじめた

「☆ちゃんは手術をするんだよ」

「ハイ」

「先生の言うこと聞けるね」

「ハイ」

「☆ちゃんはすなおでいい子だね」

「にこー」

 

「素直でいい子だ」と誉められて大満足だ。

☆は誉められるとお菓子をいただいたと同じにうれしい

すっかりご機嫌になって

「私手術するの」と得意になって触れ回った

遠足に行く気分だった。

 

斜視は簡単な手術と言っても比べる対象の問題で

遠足と同レベルに待つものではない

しかも簡単かどうかは医者の問題であって

患者にとっては失敗すればどっちも同じだ

手術という新単語が娯楽ではないことを

医者はきちっと説明をするべきだ

7歳にもなれば理解できるし

必要であるとわかれば、我慢の限界があるにしろ

一所懸命こらえようと努力できる

 

飴玉のおじさんは 釣った相手が壊れてもかまわない

甘い言葉でだましても目的は達成できる

餌に釣られた魚は 水を離れると大暴れする

命をかけた抵抗だ

飴玉で釣られた子どもだって さかなと大差ない

 

虻先生は 子どもを侮(あなど)っていた

子どもを信頼していない

子どもを バカだと思っていた

おそらく 子どもが嫌いなのだろう

それに、壊れたって かまわないのだろう

 

素直でいい子だと 誉められて

朝から晩まで手術に行くのが待ちどおしい。

1日2日先の「未知の遠足」へ夢をはせるのだった

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 1

はじめに

 

盲目の少女は温泉街でマッサージをしながら身体を売る

人相学でも 目が曲がった女は娼婦 だという

闇の常識みたいに現代もなお人の心の底に流れ続けている

 

誰が言い出したか知らないけれど全く迷惑な話だ

斜視という状態を持っただけで、人格をさげすまれる被害にあう

若いとき街を歩くとキャバレーのホステスになれ、と誘われた

見てもいないのに「にらむな」と知らない人に怒られる

目に見えない障害も十分やっかいなものだが

目に見える障害もやっかいである

その上に 白内障はもはや病気ではない、とされ

障害者でありたいために治そうとしない とまで言われる

身体の障害は心も食らう

私、☆、は 闇と光と中間と 日々さまよいながら生きてきた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

親はどんなに悔やんでも

産まれてしまった子供は育てなくてはならない

クリスチャンの家庭に育った父は

障害者と接する心得も学んでいた

しかし、正直 身内は別だ

決して口に出さず、面と向かっては態度にも出さず

でも、どうしても受け入れたくない

そんな親の気持ちはしっかり当人につたわるのことだって

きっと承知の上でも どうにもならないのだろう

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今の私は思う

障害を持って生まれてしまったら

親の人生において

自分が「いらない存在」であることを

知り 受け止め

たとえ我慢やあきらめが見え見えで育ててくれていても

同時に存在する 優しさや希望が

「人」として 生きてほしいと「願う心」を感じ取り

生きる糧 と受け入れ

自身も「人」であるために頑張る

いつか本当の理解を得

喜びと共に「私の子だ」 と言ってもらえるように頑張る

それが 先天性身体障害 の本質だと

 

だから、世話してもらうのが当たり前だ、

と言う人間を見るとむかっとするわけだが それは別の話だ

 

障害物競走は 身体に障害を持たない人が

わざわざ目で見えるような障害を設置し

人より先に克服することを目指して「走る」

それを 遊びの一つで として楽しむ

私は 毎日生きることが障害物競走だった

私にとっての障害物は 「周りの人すべて」である

「人」「人間」といいランクに並ぶように

「人間として認めてもらえるラインが引かれたゴール」 へ

ひたすら走る

成長と共に その感覚は植物が育つように成長し

社会が広がれば広がるほど その必要性を実感

前へ進むほど風あたりは強く 障害物は高くそびえ立つ

同時に ほんとうの優しさからの励ましも知った

「問題事」さえ無ければ 「気にならない存在」という隙間も意識した

闇に染まるか

光を求めるか

生きるか

終わりにするか

分かれ道は数歩ごとに現れる

「人」の何倍も頑張って成果が上がると

「人」は成果を元の基準としてしか見ない

「普通に歩ける」=見える

本が読めるから=見える

日々「人」と同じラインに立つため

どれほどの物事をあきらめて生きているか

そんなことは 「判断基準のマニュアル」に存在しない

健常者が「できない」のは「しかたがない」なのでも

私ができないと「できないふりをしてずるい」と白い目で見る

損以外の何もない

これを不公平という

 

やっぱり 生まれてくるべきでなかった

そう 思うこともたびたびある

その都度

真剣に向き合ってくれた「昔の人」を思い出し

ひたすらに頑張った頃に 心を戻して

また 今日も 生きてゆく、

居直るのである

負けてたまるか

 

この医大のシリーズは

まだまだ つらい世の中に気がつく前で

実にのびのびとしている

私にとって この時期の記憶は大事な財産で

今でも 生きるための栄養剤になっている

伊勢湾台風と長靴

東北は台風の被害が少ない

まして子供は危機感がない

 

伊勢湾台風の被害は記憶に生々しい

テレビもないので全国の被害状況など全くわからない

わからない、というのは実感が湧かない ということだ

 

小学校1年のとき伊勢湾台風がやってきた

家の土地は 表の道路からわずかに低い

我が家の裏にはさらに一段低く田んぼがある

一段と言っても水を張るために低い程度だ

 

朝起きてみると家の周りが湖になっていた

道路はあるけれども 家は水の中に浮かんでいる

大喜びで 探検に出た

 

道路を歩って行くと 途中から水没している

通常の雨で水溜りになるところに進んだらしく

ドボッと一気に長靴は水でいっぱいになってしまった

どうせ・・ と そのままそろそろ歩きで前進すると

水面は膝を越えてしまった。

 

探検を一旦中止して家に帰り着替えて

午後は 父の長靴を持ち出して裏に行った。

裏は田んぼの向こうの土手まで一面水

こんなに大きな水溜りは見たことがない

 

残飯のみかんの皮みたいなのが浮いている

よく見るといろんなゴミがぷかぷか浮いていた

急に水が汚いことに気がついたものの

そこはそこ ☆の目標は 探検だ

田んぼとの境のバラの垣根までは行きたい

田んぼに向かってだんだん深くなる

地面が田んぼに向かってわずかに傾いていることがよくわかる

 

トイレも水没した家が多い

そのことを言ってくれれば やることもちがったろうに

結局自分の長靴だけでなく 家の長靴3足を

水没させ 叱られた

 

ドライヤーなどない時代だから

きれいな水で何回も洗い

新聞紙を詰めて乾かした

 

 

 

2年後、室戸第2台風に見舞われた

 

家を出る前に人の長靴は汚すな、と釘を刺される

大丈夫、二年前の長靴の洗濯を忘れるわけがない

だから、自分の長靴だけにちゃんととどめた

 

さこちゃんは嫌い

幼少の頃、我が家に住み込みのお手伝いさんがいた

サコちゃんと呼ばれていた

 

その「サコちゃん

時々 通りがかりに私をつねった

夜中に いきなりつねられたことも数回ある

寝込みを襲われいきなり泣き出し 訴えても

本人は「していません」というと大人はそっちを信用する

「子供」ではない ☆という「イキモノ」を信用してもらえない

 

つねられるのは☆だけで

夢だろう、とか 被害妄想だとか言われた

 

「姉はもう、大きいからやられないのだ」と思っていたが

きっと そうではなかったのだろう

 

 

 

 

人は妥協値を超えると鬱憤晴らしをしたくなる

憎むに値する存在で弱いものが近くにいれば迷うことなく的にする

自分の立場が優位に利用できて

正当性を主張して当たり前に通る存在

それが☆だった

ただそれだけかも知れない

 

だとしても

鬱憤晴らしの的にされた方は鬱憤ぷんである

 

 

雪合戦と火お越し

☆の家の裏には広い田んぼがあった

こんな所になぜ田んぼ、と言う程市内のど真ん中,住宅一等地だ

 

戦後のベビーブームで子供があふれ、収容しきれなくなった生徒を分散するために新しい小学校ができ学区が分かれた境目に田んぼがあった。

つまり田んぼの向こう、我が家の裏は学校が違う

高学年は昨日まで同じ学校の生徒だったから顔見知りである

 

冬が来て田んぼは真っ白に染まり子供の遊び場になると休日は雪合戦が行われる

 

近所の小学生全員かと思うほど集まってそれはもう盛大な雪合戦だ

 

広い田んぼに雪はいくらでもあり

どこにも誰にも迷惑がかからない

 

☆は楽しくてしょうがない

 

敵味方は学校で分かれる

実にシンプルで昨日の友は今日の敵なのである

高学年が前に出てずらーっと並んでバリケードを張りながら攻撃する

低学年は後ろの安全地帯でせっせと雪玉作りに精を出す

向こうの学校の生徒が隙間を狙って無防備に雪玉作りに夢中な☆たちを狙って雪玉を飛ばす

堅くて痛い

☆は負けじと堅い雪玉を作るのに専念する

☆は凝り性だ

どうすれば堅くなるか、

どうすればまん丸になるか

どうすればお兄さんたちが喜ぶか

 

もしかしたら 同じ低学年も雪合戦に参加していたのかも知れない

☆は周りが見えないから雪玉作りを命ぜられ黙々と雪玉を作り決められた場所におく

☆の作った雪玉はすぐに使ってくれるから☆はせっせと よそ見もせずに 雪玉を作る

 

言われたことをタダひたすら繰り返す

その姿は「知能指数の低い子供」の行動であり 他者に「バカ」と言う認定をされてゆく。

☆の知ったことではない

☆は清らかにバカなのだ

盲のバカには上級生はとても優しいのだ

 

☆は雪玉を作るのがうまくなった

研究にいそしみ遅いからあまり役には立たなかったと思うが・・・

 

時間が来るとさっと終わる

勝ち負けはない、たぶん

 

当時のこたつには棚つきで 洗濯物が干せるようになっていた

雪で固まったマフラーを取ってこたつの中に入れる

 

 

☆!!

???

雪を取ってからこたつに入れなさい

火が消えてしまう

こたつの布団を上げるとほわほわと湯気が出ている

 

うん、すてきだ

 

雪は溶けると水になる

水は上空にとどまっていない

☆は少し勉強した

だって・・マフラーに凍り付いた雪なんて☆にはとれない

仕方がないじゃないか

☆は密かに反省しない

 

 

☆は火お越しを教わった

コレがまた楽しいのだ

筒を持ってフーフー

吹くたびに炭が赤く光る

ちっとも制裁になってない

 

大人はいいように☆を使い

☆は楽しく懲りまくって大人の意図などつゆほども知らない

 

☆は体験学習が大好きで平和である

福島県泉村 昔話の景色

福島県泉村 昔話の景色

 

福島県泉村へは常磐線でいく
東北線の仙台から海のほうにぐ~~っと折れていく
鎌倉生まれの母から見ればド田舎のようだ

小学校1年の夏休みは父の実家で過ごした

〈父は、父の母方の跡取りである〉

父方の総会のような行事が祖父の家で行われた

親兄弟の親睦会なのだろう
地理的都合&交通事情などもあっで

到着して用事がすんだらすぐ帰ると言うわけに行かない一週間くらい父の兄弟およびその家族数十人が滞在した

 

初体験満載の夏休み

☆の子守約の姉は泉駅から家までの道を
「正規の通路」「近道」「景色のいい遠回り」
と幾通りか教えてくれた
ある限りの道をしっかり教えておけばほおっておける
「突き当たったらどっちへ曲がる」
とか、何本目・橋のところから のように教わる
駅から左に離れなければ家は見つかる
基本的に私は上を見ない

ひたすら足下を見て歩く 

視力があろうがなかろうがそれで家に帰れる

迷子になったらその辺の家で聞いて駅に行けばよい

泉駅までの道を覚えると出歩くようになった。
姉の信頼が強いのと田舎では迷子の心配もないのだろう
ほっとかれたのがには幸いした。

家を出たらいったん駅まで行く
最初からあっちこっち歩いたら帰れなくなる
駅を出てまっすぐ進むと右手に中学校がある
泉中学校 父たちの母校らしい
そこを右に曲がって進むと川があった。
川の向こうには見えないのか そうに違いない
緑が広がっている

じっと見ていると緑は山のようだ

釣りをしている人がいると教えられてから
人を探すようになった。
流れの真中にも人がいる
どうやってたっているのだろう
川にたっているようにしか見えない
釣りを知らないからじっと動かないのが不思議でならない
待てど暮らせど動く様子がない
釣り竿が見えないから ただただ居るだけだ

 

「朝早く川に行くとすごくきれいだよ」
見つかると叱られるから そっと抜け出すんだよ
教えてくれたのは当然姉だ
食事の時間には戻ってないと叱られるよ
と注意事項もくっつく

さっそく次の日実行だ
祖父はとてつもなく早起きで抜け出すころには起きていた
見つからないようにそっと出て川へ向かう

川は静かだった
駅から川に来たときの位置から左はじきに曲がって何もない
橋がひとつあったけど 限定で通行止めなので景色の一部
右は明るく川はくねくねどこまでも続いている
早朝だからかもやに包まれてすべてがボーっとかすむ
ぼやけた灰色の世界
暗いわけではない 
足元がぼやけるほどではなく
川から向こう岸がもやに包まれている
山はかすんで輪郭がぼやけ空との境がはっきりしない
釣り人は動かずすべてが絵だった
大きな絵本の中に自分を置いて山の空気を吸う

何を思うでもなく ただぼやけた世界を眺めるだけ
それがすばらしくいい時間だ

飽きてくると家に帰る
そのころになると大人は朝食の支度で忙しく働いていた。
小さくなって家に入り、今起きた顔で挨拶する
・・そうか!このころからこんなこと覚えてたんだ・・
すっかり早朝の散歩がが気に入って滞在中の日課になった

今でも昔話の山村の絵はこの景色が土台になる
やっぱり本物は焼きつき方が違う 
動かない景色でも生きている、と感じるから