第9話 桜ご飯はいただけない
両眼グルグル巻きの状態は退屈でながーい、時間
だったはずなのにそれほどでもない
目が開けられるだけで精神は落ち着く
左眼はガーゼなどが入っていないし、目が開く空間があった
外の明るさで包帯が見える
目から5センチも離れていないのでよく見える
包帯の重なり方でできる濃淡模様を眺めていた
両眼ふさがれていたのは一日だと思う
翌日には手術した右目に立体にできた眼帯だった たぶん
食事はまだおかゆ、
山盛りの白いおかゆにうめぼしと+?
うめぼしは赤くてきれいだ
おかゆに混ぜてみた。
ああ、なんてきれいなんだろう
桜色に染まったおかゆはいかにも美味しそうだ
その色の美しさに大喜びで
山盛りのおかゆ全部を桜色に染めてしまった
つまらないプラスティックの薄緑の器に
もも色の山ができ 桜の花のようだ
ちょうど外はお花見の時期
食べずに美術館賞に浸っていたら叱られた。
看護婦;片付ける時間だから早く食べなさい
仕方が無い。美しい桜の花を一口
☆;まずい
見た目とは大違い とてつもなくまずい
桜色のご飯といったら ほら
桜の葉っぱでくるんだ あれ
あれしかないでしょう
見た目がそっくりになったとたん
わたしの頭は桜道明寺になっていた
看護婦;速く食べなさい
☆;いらない
看護婦;食べなかったら見てもらわなくちゃ
☆;?
看護婦;具合は悪くないのね
☆;うん
何を言われているかちんぷんかんぷん
看護婦;だったら速く食べなさい
そういわれたって 吐き出すほどまずい
母がやってきた。
看護婦さんになにやら言われたらしく
母;さっさと食べちゃいなさい
☆;美味しくない
母;自分でこんなにしたんでしょう。食べちゃいなさい
☆;そうだけど 美味しくない お母さん食べて
母;あなたの食事でしょう
☆;まずい
母;自分の責任でしょう
まずいからって押しつけるものじゃない
看護婦さんが来るから ガマンして早く食べちゃいなさい
手伝う気はさらさらない と伝わってくる
そんなまずそうなものいらない とも伝わってくる
何しろ一口、口に入れるとムカーッと吐き気が襲う
昼までがんばってどうにかほとんど全部食べずにすんだ。
お昼は美味しくいただいたし
一日中桜餅で頭がいっぱいで ひまな記憶がない
食べ具合だけで体調を判断しようというのが間違っている
どうしようもない、 予想外のことだってありうるんだから
あの桜餅風ご飯が 道明寺の味なら
おかわりがほしいくらいだったはず
うめぼしのご飯がまずいというより
想像した味とあまりにかけ離れていただけだった
桜道明寺色のご飯は二度と作らないけど
「美味しい」梅干も 梅干のおにぎりも好き