第14話 ケーキが二つ
医大には白内障の手術と思い込んでいたから
別な病室に同い年の斜視の子が入院してきても
「私は白内障」と言い切っていた
その子の担当は斜視が専門の渥美先生
なぜか担当じゃない先生の名前は覚えている
のちのちラジオの眼科相談や、福祉センターの眼科医など
福祉関係に力を入れた先生でだが
なぜかいっぺんで覚えて忘れなかった
渥美先生はいつもニコニコ
たまには☆にも声を掛けてくれた
なぜ、自分の担当がこの先生じゃないのか、と
当時でも とても残念に思った
その斜視の子の頭文字はT
☆;斜視ってどんな病気?
T;よく見ようとすると何でも二つに見えるの
☆;お菓子もふたつあるの?
T;二つに見えるよ さわると一つしかないんだけどね
どっちにしようと顔を動かすと一つになったりするよ
ものすごく面白い病気だ
物が二つに見えることを想像して楽しんだ
美味しそうなケーキが二つあって
大きいほうをとろうとすると消えてしまう
夢にまで見てしまった
ポケットをたたくとビスケットが二つ
なんて歌を歌うと 斜視の歌も作れそうだと思ってニヤリ
自分は白内障でそんな病気じゃないから
二つに見えるなんてことはない
そんなことを病室で話しているのだから
コッケイだったに違いない
よく考えると 考えなくても 私も斜視だ
ものが二つに見えても良いじゃないか
当時すでに「ものを見るための右目」はもっていなかった
斜死目 と言ったところかな
右目を意識して使うことを覚えなかった入院生活は
両親から見れば何の成果もなく終わった。
担当医から見たらどうだったんだろう
知りたいものだ
☆のことだ
がんばるとケーキが二つに見えるぞ
くらいでコロッと引っかかって
右目を使う訓練をたっぷりしたかもしれない
なにしろ 目標が定まると
それがろくでもないことでも まっしぐらだ
少少あきらめもはやい気もするが