第13話 両眼を使え
手術は滞りなく終わったようで行動規制がどんどんなくなった
これまで斜視の手術と書いてきて、実際そうなのだけれども
白内障をよくする手術、とだけ聞いていた
大人にしてみればそれで十分と思ったのだろう
手術に違いがあるじゃなし
すんでしまえばみな同じ
ドンチャン チャチャチャ チャッチャ・・・
手術からずいぶん経ったある日
逃げないように先生はずいぶん早く来て診察室へ
先日の握力を測った部屋で 椅子に座る
ちょっと見せて、といって、いきなりグイ
抜糸だと後から聞いた
☆;いたい
虻;こんなの痛くないだろう
☆;いたい
虻;手術より痛くないだろう
☆;手術は寝てたから痛くなかった
虻;口の減らないヤツだ
それで解放
最初の手術の前に
手術は痛くも何ともない と言った
この発言はおかしいと 後から思った
言い返すなら相手の記憶に新しいうちがいい
だから そのことでは言い返していない
蒸し返しているのは蛇の方だ
その日、
まさか午後もくるとは思わなかったから6階で遊んでした
虻;☆ちゃんこっちに来て
☆;えっ、? しぶしぶついてい
午前中と同じ部屋に行き、同じ椅子に座るが向きが違う
目の前には黒いものがあった
のぞき窓が二つの望遠鏡のようにも見える
悲しいかな、珍しいものには目がない
虻;のぞいてみて
なにやら赤いものが見える
虻;右で見て
☆の目は右目がそっぽを向いている
それを治したのか 治らなかったのか
右で見ると左では見えない
虻;左で見て 赤いのが見えるか
☆;見える
かなり面白い。動く赤いものを追いかける
虻;今度は両目で見て
☆;??・・・??
虻;両方の目をつかうんだ
☆;??」
何を言っているのかわからない
虻;左で見えるだろう
☆;うん 赤いのがはっきり見える
虻;右でも見えるだろう
☆;うん 右で見るのはたいへんだけど、見える
虻;両方使って見えるか
☆;・・・???? これがわからない。
生まれてからの記憶では一度も
両方の目で 同じものを 同時に見たことがない
見る=両眼視 という観念は それを知っている人のものだ
両眼で見ると言う動作その物が理解できない
雲行きが怪しくなってきた
虻;物って言うのは両方の目を使ってみるものなんだ
チンプンカンプン ボケッ
虻;両方の目を使え
☆は戸惑う
虻;手術したんだからできるだろう
手術の後 変化など全く感じていない
左で見れば右は見えない
右を無理に使えば左は見えない
ごくごくあたりまえのことで
両方使えって言われても こまる
虻;できないわけないだろう
なにをしたら良いのか、
どう筋肉を動かせば良いのか
どう努力したら何が起こるのか
それ以前に 斜視という自覚がない
人間の目は両眼とも同じ方向を向いているものだ、
とすら思っていない
自分だけ目つきが悪いなんて考える&感じる余地もない
自覚のないものをどうこう言われても 理解できない
訓練する意味も必要性も何も とにかくわからない
虻;しょうがないな 今日はいい
何がなんだかわからないまま終了
このときは 落ち込んでしまった (ちょっとだけ)
面白くもない
翌日は昼食終了と同時に逃げ出した
先生は昨日と同じ時間に来て空振り
ところが夕飯の食器の音と同時に現れたところを狙ってきた
これはどうしようもない
昨日と同じ 怒鳴る声が増えただけだ
意味のわからないことを何度言われてもどうしようもない
これは抵抗しているわけではない
わからないのだ
ほかのことと違う
ゲームみたいなのを覗き込むことがいやなわけがない
ただ 反抗もしていないのにやたら叱られる
虻;まえは何をやらせてもダメだ
言うことを聞かない
両方の目を使え
どうしようもないヤツだ
だめなヤツだ
極力逃げることにしよう