医大 理不尽と生きる知恵 13

第12話 中身がないエレベーター

入院中は本当に良く遊んだ。

何しろ一日中ひまなのだから当然ではある

裏階段は運動場でわたしの占有領域だった

ただ、いつもそこにいると飽きるし見つかってしまう

五階のおじさんの所だって入り浸るわけには行かない

あっちこっち見て歩いた

 

病院の魅力のひとつがエレベーター

用もないのに乗ることを許されていない

階段の運動とは別にこれはこれで興味がある

飽きるほど乗って上がり下がりをしたい

どうなっているかも見てみたい

 

ある日エレベーターのドアが開いていた

へんだ

ドアが開いているのに中身がない

好奇心に火がついた

絶好の機会である

逃したら二度とない

そーっと エレベーターに近寄る

空っぽだ

さすがに怖いから 数歩前で腹ばいになり

ハイハイで空っぽのエレベーターへ

覗き込む

 

奈落の底 と言うのはこういうのだろうか

底が見えない 

ずっと下のほうに一ヶ所明るい光が差している

1階かな それとも地下かな

今度は首を回して上を見る

上も真っ暗だな

 

看護婦;なにやってるの

悲鳴が聞こえた

甲高く叫ぶだけでこっちに来ない

きっと怖いんだ

 

看護婦;こっちに来なさい

はったまま下がり すっと立って従う

この行為は叱られても仕方がない

 

エレベーターには近づかない約束をさせられた

虻先生じゃないし

悪いこととは十分承知しているので素直に約束した

それ以降ドアが開いているのに中身がないことはなかったし

エレベーターにも一人で近づかなかった

 

もう十分見てしまって用がないし ね

 

 

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