医大 理不尽と生きる知恵 9

第8話 麻酔ミス

肺活量の検査から何日か楽しい日が続いた

次の日すぐ手術ではなかったということになる

 

ある日朝食が無かった

手術するとは聞かされていない

当然逃げるからだろう

;あれ?何でご飯が無いんだろう

といやな感じだ 危ない

思ったときには看護婦さんが部屋にきていた

逃げ出す必要性を考えるひまさえなかった

ベッドから下りることを禁じられ

あっという間に注射を打たれ 動くのがだるい

ボーっとして逃げる気も起きない

自分の部屋をただただボーっと見ながら 

時間が進むのすらぼんやりでわからない

父か母がいたに違いないのだが、その記憶もない

灰色の部屋と窓から見える空だけが見える

 

時間の経過は青い空だけが知っている

数人の先生や看護婦さんが来た

着替えたが身体は動かす気力もない

されるがままに着替えて抱かれて別なベッドに移された

頭だけが半分眠って生きている

 

また注射をされる 

そのまま部屋を出てエレベーターに乗った

エレベーターの天上をボーっと見た

蛍光灯がついている

ボタンをしたから見ると違う場所のように見えて

「エレベーターは面白い」と記憶に残っている

 

地下室の明るい窓が見えた

嫌だと思う気力がない

大きな鉄の扉は開いていて止まらず進んでいく

手術室に入るあたりで記憶は終わった

 

目がさめたのはいつかわからない

わたしの記憶以前に騒動があった

 

病室に戻って両親がそろって付き添っていたとき

呼吸困難を起こした

父はすぐ医者を呼ぶ

眼科の虻、と麻酔の担当医が来て

 麻酔が強すぎた 

 そっちがわるい 

 いやそっちのせいだ 

患者そっちのけで責任のなすりあいをはじめた という

 

父;患者が苦しんでるのにおまえたちは何をしている

他人には温厚な父が怒った。

めったに怒らない人が怒ると迫力があるものだ

医者はあわてて処置にかかった という

 

麻酔が強すぎて喉に傷がついたと、後で大人が話していた

私は呼吸困難さえ記憶にないのだから、わからないが

この医者の態度は何十年もずーッと後まで耳たこほどの語り草となり

まるで私が起きていて 見ていたかのように記憶に焼き付いている
 

目がさめたときには鼻にゴム管が通っていて

くさくてたまらなかった

違和感もひどいし とろうとしたら手を縛られてしまった

その後何度も眠ったり目がさめたり

目がさめるたびにゴム管が気になって記憶に焼きつき

ずっと起きていたように思うが、そんなことはあるわけない

ほとんど寝ていたはずだ

 

翌朝の診察はぞろぞろたくさんの足音とともに

向こうから(私が行くのではなく)やってきた

包帯を外し最初に見えた顔が 白髪のやさしい顔

この顔は いい

見えるかどうかとか いくつか聞かれて

また包帯をして終わった

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