医大 理不尽と生きる知恵 11 死体を求めて

姉は・天才だ

「2月30日」のように 

奇抜で 大人が想像しないようなことを思いつく

私にはとうていそんなセンスはない

のせられる☆は 言いようがない◎!◎ と自覚するのだが

尊敬している姉を懲りずに信じてしまうのである

ちなみに 姉は3才年上である

3才しか年上でない とも言う

 

姉は時々お見舞いにきてくれた

ある時 一緒に一階に下りた

姉は外に行こうとする 私は禁止されている

それに寝巻きにスリッパだ

 

姉;大丈夫だから 

  ちょっと外に出るだけで

  遠くに行くわけじゃないから

少々おどおどしていたら

姉;堂々としていれば何も言われないよ

大きな出入り口の真中を姉が行く

☆;そういうものなのか

そこで堂々と、パジャマとスリッパのままついていった

 

姉と病棟のすぐ外を少し歩いた

姉;ほら、あそこのね 

病棟の地下室を指差す

☆;うん、

  手術室のあるところ

姉;あそこの4番目の窓 わかる

☆;4番目?

姉;そう、ほとんどもぐってて 窓が少しある部屋

☆;うん、わかるよ

姉;あそこはね、解剖室でね

☆;解剖室?

姉;そう。解剖室

☆;何をするの

姉;死体を切って人間の身体がどうなってるか見るところ

☆;へえ

姉;だから死体が置いてあって

☆;たくさんあるの?

姉;ズラーっとならんでる

☆;見たい

姉;あの部屋は見えないようになってる

☆;そうか

 
姉と楽しい時間を過ごして部屋に帰った
 
あきらめられるわけがない

みたい 絶対みたい

 

日を改めて 堂々とパジャマのまま、

スリッパのまま、一人で外に出た

とがめる人はいない

 

姉と話した場所に行って地形を確かめる

そばにも近寄れそうもない

表通りも寝巻きとスリッパで堂々と歩いて

ぐるっと病院を回り 別な方角から 建物に近づいた

ここなら見えるかもしれない

 

建物の周りは変わった地形と建て方で

簡単には地下室はのぞけない

建物にそった細いコンクリの突起を眺めて

 

「いけるだろうか・・」

建物に引っ付きスリッパを脱いで 

一歩  「やばいかな」

一歩  「チットむりかな」

ルパンやラピュタの世界だ

そのころはそんなものは知らないけれど

 

早々(数歩)にあきらめて 戻ろうと思うが

行きより帰りがどうしようもない

膝が曲がると身体が壁から離れてしまう

しかし、戻らないと困る

慎重に 壁にますます引っ付いて

無事戻った 

もしかしたら奇跡かもしれない 

背中を壁につけたほうが動きはいい

でもそれじゃ窓の中はのぞけない

そんなことを学んだ・・・学ばなくていい

 

しかし 解剖室はあきらめられない

なんとしてでも見たい。

「そうだ 中から行こう」

危ない外よりも 中からのほうが楽なはず

手術室のある地下室は行きたくないけど

この際そんなことは言っていられない

 

日を選んで (休日の朝で看護婦さんが忙しい時間) 

地下に下りた

誰もいない

 

さあ 4番目

「一つ・ふたつ・三つ・・・?」

戻る

「一つ・二つ・三つ・・・ない」

4っつ目の部屋がない

4っつ目の窓は手術室の前で広いだけだ

 
だまされた! とやっと気がついた

 
それでもまだあきらめがつかない

なんとしても死体が並んでいる部屋を見たい

もしかしたら手前の部屋かも知れない

一部屋ずつのぞいてみることにした

どの部屋も机があるか 何もないかだ

 

どうしよう 戻ろうか

手術室と別の方向にも廊下があった

こっちかもしれない

 

暗い冷たい廊下に 鉄の扉が並んでいるようだ

そういう雰囲気だけかもしれない

冷たくて重い空気に 寒気を感じる

いくのを断念した

 

何の音も聞こえない地下室は人の行くところではない

もちろん運ばれてくるところでもない

やっぱりいやなところだった

誰にも会うこともなく 知られることもなく

解剖室と死体は あきらめた

 

無事でなりより !

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 10 桜ご飯はいただけない

両眼グルグル巻きの状態は退屈でながーい、時間

だったはずなのにそれほどでもない

目が開けられるだけで精神は落ち着く

左眼はガーゼなどが入っていないし、目が開く空間があった

外の明るさで包帯が見える

目から5センチも離れていないのでよく見える

包帯の重なり方でできる濃淡模様を眺めていた

 

両眼ふさがれていたのは一日だと思う

翌日には手術した右目に立体にできた眼帯だった たぶん

食事はまだおかゆ、

山盛りの白いおかゆにうめぼしと+?

うめぼしは赤くてきれいだ

おかゆに混ぜてみた。

ああ、なんてきれいなんだろう

桜色に染まったおかゆはいかにも美味しそうだ

その色の美しさに大喜びで

山盛りのおかゆ全部を桜色に染めてしまった

 

つまらないプラスティックの薄緑の器に

もも色の山ができ 桜の花のようだ

ちょうど外はお花見の時期

食べずに美術館賞に浸っていたら叱られた。

看護婦;片付ける時間だから早く食べなさい

仕方が無い。美しい桜の花を一口

☆;まずい

 

見た目とは大違い とてつもなくまずい

桜色のご飯といったら ほら

桜の葉っぱでくるんだ あれ

あれしかないでしょう

見た目がそっくりになったとたん

わたしの頭は桜道明寺になっていた

看護婦;速く食べなさい

☆;いらない

看護婦;食べなかったら見てもらわなくちゃ

☆;?

看護婦;具合は悪くないのね

☆;うん

何を言われているかちんぷんかんぷん

看護婦;だったら速く食べなさい

そういわれたって 吐き出すほどまずい

 

母がやってきた。

看護婦さんになにやら言われたらしく

母;さっさと食べちゃいなさい

☆;美味しくない

母;自分でこんなにしたんでしょう。食べちゃいなさい

☆;そうだけど 美味しくない お母さん食べて

母;あなたの食事でしょう 

☆;まずい

母;自分の責任でしょう

  まずいからって押しつけるものじゃない

   看護婦さんが来るから ガマンして早く食べちゃいなさい

手伝う気はさらさらない と伝わってくる

そんなまずそうなものいらない とも伝わってくる

何しろ一口、口に入れるとムカーッと吐き気が襲う

昼までがんばってどうにかほとんど全部食べずにすんだ。

お昼は美味しくいただいたし

一日中桜道明寺で頭がいっぱいで ひまな記憶がない

 

食べ具合だけで体調を判断しようというのが間違っている

どうしようもない、 予想外のことだってありうるんだから

あの桜道明寺風ご飯が 道明寺の味なら

おかわりがほしいくらいだったはず

 

うめぼしのご飯がまずいというより

想像した味とあまりにかけ離れていただけだった

 

桜道明寺色のご飯は二度と作らないけど

「美味しい」梅干も 梅干のおにぎりも好き

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 9 麻酔ミス

肺活量の後、何日か楽しい日が続いた

次の日すぐ手術ではなかったということになる

 

ある日朝食が無かった

手術するとは聞かされていない

当然逃げるからだろう

;あれ?何でご飯が無いんだろう

といやな感じだ 危ない

思ったときには看護婦さんが部屋にきていた

逃げ出す必要性を考えるひまさえなかった

ベッドから下りることを禁じられ

あっという間に注射を打たれ 動くのがだるい

ボーっとして逃げる気も起きない

自分の部屋をただただボーっと見ながら 

時間が進むのすらぼんやりでわからない

父か母がいたに違いないのだが、その記憶もない

灰色の部屋と窓から見える空だけが見える

 

時間の経過は青い空だけが知っている

数人の先生や看護婦さんが来た

着替えたが身体は動かす気力もない

されるがままに着替えて抱かれて別なベッドに移された

頭だけが半分眠って生きている

 

また注射をされる 

板の上に乗せられた

そのまま部屋を出てエレベーターに乗った

エレベーターの天上をボーっと見た

蛍光灯がついている

ボタンをしたから見ると違う場所のように見えて

「エレベーターは面白い」と記憶に残っている

 

地下室の明るい窓が見えた

嫌だと思う気力がない

大きな鉄の扉は開いていて止まらず進んでいく

手術室に入るあたりで記憶は終わった

 

目がさめたのはいつかわからない

わたしの記憶以前に騒動があった

 

病室に戻って両親がそろって付き添っていたとき

呼吸困難を起こした

父はすぐ医者を呼ぶ

眼科の蠅、と麻酔の担当医が来て

 麻酔が強すぎた 

 そっちがわるい 

 いやそっちのせいだ 

患者そっちのけで責任のなすりあいをはじめた という

 

父;患者が苦しんでるのにおまえたちは何をしている

他人には温厚な父が怒った。

めったに怒らない人が怒ると迫力があるものだ

医者はあわてて処置にかかった という

 

麻酔が強すぎて喉に傷がついたと、後で大人が話していた

私は呼吸困難さえ記憶にないのだから、わからないが

この医者の態度は何十年もずーッと後まで耳たこほどの語り草となり

まるで私が起きていて 見ていたかのように記憶に焼き付いている
 

目がさめたときには鼻にゴム管が通っていて

くさくてたまらなかった

違和感もひどいし とろうとしたら手を縛られてしまった

その後何度も眠ったり目がさめたり

目がさめるたびにゴム管が気になって記憶に焼きつき

ずっと起きていたように思うが、そんなことはあるわけない

ほとんど寝ていたはずだ

 

翌朝の診察はぞろぞろたくさんの足音とともに

向こうから(私が行くのではなく)やってきた

包帯を外し最初に見えた顔が 白髪のやさしい顔

この顔は いい

見えるかどうかとか いくつか聞かれて

また包帯をして終わった

医大 理不尽と生きる知恵 8 楽しむ医者たち

いくらなんでも病院だ

平和な日がそう長く続くわけがない

月曜日が手術で火曜日が絞られ、

水曜木曜と隠れ

金曜日は朝からつかまった

朝から姿を消したのは土曜日ということになり 

あまり意味がなかった気もする

 

月曜日か火曜だろう、朝食の直後から監視がついた

ひまなしに声を掛けられるので出られない

仕方がない、6階で遊んでいた

看護婦さんに呼ばれ診察室に行く

ほんとうに、仕方がないから ドアを開けて入った

 

(ここでの;医者;は蠅以外の三人をさす)

4人もおんなじカッコをした先生がいる

全員白衣に黒のズボン

担当医がいるかどうかわからない

医者;こっちに来て ここに座って

蠅じゃない、違う声だ

ほっと安心しておとなしく座る

医者;「口を大きく開けて」

普通の内科検診 普通に受ける

 

医者;これに口をつけて息を吐き出してみて

水が入った箱の前に座った

これはなんだ? 面白そうだ!

☆;ふーっ

医者;もっと大きく息をして 全部吐いてみて

☆;フーッ!!!

なにやらおおぎがたのものが息を吐くと上がってくる

面白い 面白い

頼まれもしないのに 「ふーっふーっ」

医者;あっ やんないで 一回だけでいいから

☆;ふーっ

医者;1000いかないな

蠅;これじゃまた手術できないじゃないか

あの声だ。いたんだ。いやーな予感がした

蠅;おまえ下手だな。かして見ろ

蠅;ブーッ あれ やりすぎたかな

医者;4000超えたぞ。戻らないぞ

医者;おまえ壊したんじゃないか

みんな楽しそうに笑いながら機械をいじっている

じっと見る

なんて面白いものだろう

どうして上がってくるんだろう

医者;もう一回やってみて

蠅;一回だけだぞ

☆(わかってるよ、)

  ふーっ

医者;9**、出ないな。しかたがないか

蠅;おまえはへただな。ハイ こっちに来て

 

となりに移る

蠅;これをこう持って 思いっきり握ってみて

☆;グーッ!

医者;「これ・・10だぞ。」

蠅;ホントに下手だな。貸して見ろ、こうやるんだ

  ググー

医者;40、おまえ加減しろよ

みんな楽しそうだ。

もう一回やっても結果は同じだった

 

蠅;次はこれを引っ張って

今度持ち出したのは自転車の空気入れみたいなものだ

☆;んー!!!!!?? 上に上がらない

蠅;もういい 行っていい

 

ふーっと上がるの もっとやりたい 

こういうのならいやみなど気にならない

いつも姉に自慢されてなれになれている

姉はちゃんと面倒を見てくれるところが違う

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

蠅先生は大違いだ。

先生は4000とか40とか4が好きなんだ

  ・・・病棟には4号室がない・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

午後はまた5階でおやつとおしゃべり

ちゃんと私が行くのを待っていてくれる

裏階段を数回往復してちょっと早めに戻った

表から堂々と看護室の前を通る

看護婦;☆ちゃん 具合悪いの

☆;? なんでもないよ??

看護婦;まっかな顔してるから 熱測ろう

☆;走ってきたから

看護婦;走って?走ったらダメでしょう

☆;・・・・(だって イイヤ、無言が一番)

看護婦;病院なんだから静かにしてなきゃいけません

☆;・・・・(病気じゃないもん)

看護婦;とにかく真っ赤な顔してるから熱を測りなさい

☆;はい

だから見つからないようにしていたのに・・

ついつい油断をするとこうなってしまう

走れば顔に出るなんて考えもしなかった

それ以降 階段の運動会の後は息を整え落ち着かせ

忙しい夕食の時間まで6階にはもどらず

極力 看護婦さんには合わないようにした

もちろん退院まで 自由の身である限り階段は走りつづけた

 

姉に鍛えられた精神力は

この病院生活で十分に発揮され、磨かれた

その上、自力で活動することも身に付けてしまった

もっと言うと 大人に見つかるリスクとか

「約束」の使い方や

隠す、隠れる 逃げる技術とか 

誰と仲良くするとお菓子が手に入るかとか

どんな態度が大人に人気があるか とか

見えていない階段を駆け下りる方法も

色分けすると居場所がわかることも

 

いいことも

7歳には余計なことも

一月の入院でたくさん身に付けた

実りの多い経験には違いない

 

医大 理不尽と生きる知恵 7 病院は☆の町

蠅につかまって朝の診察が終わると

午後はフリーで思いっきり自由時間

スリッパを履いていけるところは全部自分の町

手術室という牢屋もある

病院探検にサイコウ日よりとなった

 

五階の外科病棟は一日で居場所&隠れ家になった

ほかにもいいところがあるだろう

 

二階の記憶が無いのは入院病室ではなかった、とか

ウロウロ人がたくさん居る、とかで

エレベーターホールから先が:お呼びでなかった:に違いない

 

三階が小児病等 子どもがいるなら友達になろう

聞く話では小児麻痺の子が入院しているらしい

小児麻痺とはどんな病気、怖いとだけ聞いている

ドアが2重になっていて厳重だった

そっと開けて入ってみる

 

シーン

誰もいない

冷たい空気が流れていて物音一つしない

病棟が死んでるようだ

子どもの病室とは思えない音のない世界

 

よく磨かれた薄緑色の床が西日を反射して

まるで氷でできているように光っている

寒気がした

怖くなってそっとドアを閉める

小児麻痺って こわい

 

逃げるように四階に上がる

ここも静かだった

小児病棟のような異様な空気ではないが

ーーーつまらない

ここは内科だった気がするが覚えていない

 

やはり五階がいい。

おじさんたちとお菓子を食べて

夕飯前に階段を走っておなかを減らし

食器の音を聞きつけたら表から部屋に戻る

 

翌日は診察有りか無しか 先生が来たか来なかったのか

☆の知ったことではない

朝からベッドは不在で、平和な一日だった