自転車 7 再び自転車

訳あって結婚なんてしてしまって

 

新居は龍ヶ崎というところ

 

常磐線佐貫の駅を降りると ニュータウンの道路が・・・

 

それはそれはまっすぐ ドーッと続いていました

 

第一次募集くらいの時でニュータウンにはほとんど人がいない

 

つまり道路はしっかり人がいないと言う理想の静けさ&歩きやすさなのです

 

家は突き当りからさらに農道を先へ進んだところにありました

 

駅から4キロほどでしょうか

 

最初のころは50ccのバイクに二人乗りでした

 

二人乗りがいけないなどは知りません

 

だって、 もともと免許が取れないのですから知る必要がありません。

 

あっという間につかまりました。

 

「3000円も罰金取られた、とか言ってましたっけ。

 

 

その後すぐに自転車を持ってきました

小型の足のつくやつ

 

☆;自転車は乗っちゃいけないから

仙人;いいか悪いかは自分が見ればわかる

 

☆は自転車に乗れる

何年たったって ちょっと乗れば思い出す

しかし、そういう問題じゃない

 

仙人;判断は自分がする

仙人;大丈夫だ 

 

ソリャ 運転はできますよ

自転車大好きですよ

でも、そういう問題じゃない

 

仙人;自分の判断に間違いはない

仙人の祖母は全盲だった。

盲人のことはよくわかっていると自称している

耳たこほど繰り返される

たしかそのおばあさま仙人が5・6才の時に亡くなっているはず

「祖母が盲目だった」と言うことが仙人の強みらしい

 

翌日から自転車の通勤が始まった

ニュータウンはまだまだ人が少なく 道路だけが立派で

歩道はわが自転車のために存在した。

 

駅の近くは人が増え(当たり前)

5メートルも先の自転車を見つけて

ワッ ぶつかる と急ブレーキをかけ滑ってひっくり返る ピエロの真似事以外は何事も起こらなかった

どんどん運転がうまくなった

 

 

佐貫の駅前って当時広い砂利地帯だった

何度も砂利につまずいて滑って前方に焦って 擦り傷が耐えなかった

そのような微々たること3千円の罰金に比べたらどうでも良いことだ

バイク免許の更新=50ccからの格上げは「面倒」だと即効却下された

車にひかれてさよならも近いかも知れない、と思ったし

授業中も救急車の音が気になってくれた母の思いが暖かい

仙人は「世の中に必要のない☆の存在」を消しさる使命でも抱えて現れたヒーローなのだろうか

☆は 「仙人の所にいる」ことは諦めても 「生きること」 を諦めていない

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 16 病気を知る

医大に入院した体験は 精神的発達にも

感覚の発達にも大きな影響があった

 

等間隔の階段を目ではなく頭で駆け抜ける方法を知った

常に周りを観察し行動パターンを知ることで 

姿を消したり現れたりするタイミングを逃さない

つかまったら言うことを聞いたほうが解放が早い

自信を持って堂々と行動すること

などなど

こんなこと、入院して覚えることじゃないだろう

 

おとなになってから この体験をまともに生かせたと思う

 

病気を持った子どもの教育の重要さ 

お医者さんの姿勢 あり方 など 

医療や教育について考えるようになった

 

斜視の訓練は記憶では二回しかしていない

虻先生は私が逃げるからできないというけれど

私が上手く逃げるというよりは 

それをいいことに 先生がやめてしまったのだと思う

ほんとうに重要なときはちゃんとつかまっていたし

私が行くところなど本気を出せばわかるだろう

医大は最初から する価値のない手術であり

意味のない訓練であることを知っていたのではないか

専門医でない、しかも子ども嫌いの医者が担当し、

野放しであそばせていた

 

どの医療機関でも治せないと診断した斜視を

「我々なら治せる」と本気で思ったとしたら

斜視専門の医者が担当するのが自然であろう

 

最初の手術でも これから起こることの説明や

出来れば予行演習をし、メスと注射と差が無いと吹き込み

きちっと立ち向かわせ 

泣き出しそうになったらおなかをさすって励ます、とか

楽しいことを言って 頑張らせる とか

涙が出ても暴れなければ 先生うまくやるからね、とか

全身麻酔でなくても 我慢させる 頑張らせる 方法は

絶対にあったはずだ

信頼はあめ玉では得られないし

あめ玉は あめ玉の価値しかないことを知るべきである

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

娘は白内障にとどまらず緑内障まで併発してしまった

8歳のとき入院した東京慈恵医大の小児病等では

6・7・8歳の子が毎日

自分がかかっている病気のビデオをみて勉強していた

 

毎日インスリンを打たなければどうなるか

腎臓が悪いとどうなるか

病気を知り 治療法を学ぶ

死に向かう道しかない子どもに対しても

激しく揺れ動く心の動揺に

今生きることの意味を看護婦さんが根気よく話し元気付けていた

聞いているだけで深い感銘を受ける

病気を知ることは一見かわいそうに思えるが 

髪の毛が抜け落ちてしまった現実がある

毎日注射される現実から逃れられない

自分の病気を理解することが

自分自身で病気と闘う心を育てる

娘の面会に行きながら 

生きることの尊さを改めて学んだ

きちっと指導するこの病院はすばらしいと思った

・・・・・・・・・・・・・・・・・

小学校のじゅん子ちゃんは 

自分の病気を知っていたから、病気と戦えた

だから いつまでも心に残り 生きてほしかった
    〈タグ命=じゅん子ちゃん〉
私は自分の病気を「先天性白内障」と教えられていた

間違いはないが、斜視を伴っているとは知らずに育った

眼球しんとうなるものも知らなかった

他の人が見えないから目が悪い自覚もない

斜視は「ものが二重に見える病気」で私は二重には見えない

自分で鏡を見ると 使っている左眼が正面を向くわけだし、

視力がないから2センチまで近づいて見るわけで

当然右目のあたりは見えてない・・・無いに等しい

具体的に教えてもらわないと

第三者からの見た目を知ることができないし

見た目で判断されて告げられると安易に信じてしまう

 

自分の斜視を自覚したのは高校に入ってからだ

山形盲学校には全国に先駆けて斜視学級をおいた

小学1年生を中心に東北大学で手術し

盲学校で訓練をするというクラス

そのクラスの生徒と私の斜視がほぼ同じ程度だと聞かされ 

初めて斜視というものを見た

ひどいものだ

かためは白目に見える

 

「ああ、こうだからいじめられたのか」

いじめられた原因は白内障ではない

そこから生まれた「おまけの斜視」だった

十分納得できた

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 15 ケーキが二つ

医大には白内障の手術と思い込んでいたから

別な病室に同い年の斜視の子が入院してきても

「私は白内障」と言い切っていた

その子の担当は斜視が専門の渥美先生

なぜか担当じゃない先生の名前は覚えている

のちのちラジオの眼科相談や、福祉センターの眼科医など

福祉関係に力を入れた先生でだが

なぜかいっぺんで覚えて忘れなかった

 

渥美先生はいつもニコニコ

たまには☆にも声を掛けてくれた

なぜ、自分の担当がこの先生じゃないのか、と

当時でも とても残念に思った

 

その斜視の子の頭文字はT

☆;斜視ってどんな病気?

T;よく見ようとすると何でも二つに見えるの

☆;お菓子もふたつあるの?

T;二つに見えるよ さわると一つしかないんだけどね

 どっちにしようと顔を動かすと一つになったりするよ

ものすごく面白い病気だ

物が二つに見えることを想像して楽しんだ

 

美味しそうなケーキが二つあって 

大きいほうをとろうとすると消えてしまう

夢にまで見てしまった

 

ポケットをたたくとビスケットが二つ

なんて歌を歌うと 斜視の歌も作れそうだと思ってニヤリ

 

自分は白内障でそんな病気じゃないから

二つに見えるなんてことはない

そんなことを病室で話しているのだから

コッケイだったに違いない

 

よく考えると 考えなくても 私も斜視だ

ものが二つに見えても良いじゃないか

当時すでに「ものを見るための右目」はもっていなかった

斜死目 と言ったところかな

 

右目を意識して使うことを覚えなかった入院生活は

両親から見れば何の成果もなく終わった。

担当医から見たらどうだったんだろう

知りたいものだ

 

☆のことだ

がんばるとケーキが二つに見えるぞ

くらいでコロッと引っかかって 

右目を使う訓練をたっぷりしたかもしれない

なにしろ 目標が定まると

それがろくでもないことでも まっしぐらだ

少少あきらめもはやい気もするが

 

医大 理不尽と生きる知恵 14 両眼を使え

手術は滞りなく終わったようで行動規制がどんどんなくなった

 

これまで斜視の手術と書いてきて、実際そうなのだけれども

白内障をよくする手術、とだけ聞いていた

大人にしてみればそれで十分と思ったのだろう

手術に違いがあるじゃなし

すんでしまえばみな同じ

ドンチャン チャチャチャ チャッチャ・・・

 

手術からずいぶん経ったある日

逃げないように先生はずいぶん早く来て診察室へ

先日の握力を測った部屋で 椅子に座る

ちょっと見せて、といって、いきなりグイ

抜糸だと後から聞いた

☆;いたい

蠅;こんなの痛くないだろう

☆;いたい

蠅;手術より痛くないだろう

☆;手術は寝てたから痛くなかった

蠅;口の減らないヤツだ

それで解放

 

最初の手術の前に 

手術は痛くも何ともない と言った

この発言はおかしいと 後から思った

言い返すなら相手の記憶に新しいうちがいい

だから そのことでは言い返していない

蒸し返しているのは蠅の方だ

 

その日、

まさか午後もくるとは思わなかったから6階で遊んでした

蠅;☆ちゃんこっちに来て

☆;えっ、? しぶしぶついてい

午前中と同じ部屋に行き、同じ椅子に座るが向きが違う

目の前には黒いものがあった

のぞき窓が二つの望遠鏡のようにも見える

悲しいかな、珍しいものには目がない

蠅;のぞいてみて

なにやら赤いものが見える

蠅;右で見て

☆の目は右目がそっぽを向いている

それを治したのか 治らなかったのか

右で見ると左では見えない

蠅;左で見て 赤いのが見えるか

☆;見える

かなり面白い。動く赤いものを追いかける

蠅;今度は両目で見て

☆;??・・・??

蠅;両方の目をつかうんだ

☆;??」 

何を言っているのかわからない

蠅;左で見えるだろう

☆;うん 赤いのがはっきり見える

蠅;右でも見えるだろう

☆;うん 右で見るのはたいへんだけど、見える

蠅;両方使って見えるか

☆;・・・????  これがわからない。

生まれてからの記憶では一度も 

両方の目で 同じものを 同時に見たことがない

見る=両眼視 という観念は それを知っている人のものだ

両眼で見ると言う動作その物が理解できない

 

雲行きが怪しくなってきた

蠅;物って言うのは両方の目を使ってみるものなんだ

チンプンカンプン ボケッ

蠅;両方の目を使え

☆は戸惑う 

蠅;手術したんだからできるだろう

手術の後 変化など全く感じていない

左で見れば右は見えない

右を無理に使えば左は見えない

ごくごくあたりまえのことで

両方使えって言われても こまる

蠅;できないわけないだろう

なにをしたら良いのか、

どう筋肉を動かせば良いのか 

どう努力したら何が起こるのか

 

それ以前に 斜視という自覚がない

人間の目は両眼とも同じ方向を向いているものだ、 

とすら思っていない

自分だけ目つきが悪いなんて考える&感じる余地もない

自覚のないものをどうこう言われても 理解できない

訓練する意味も必要性も何も とにかくわからない

 

蠅;しょうがないな 今日はいい

何がなんだかわからないまま終了

このときは 落ち込んでしまった (ちょっとだけ)

 

面白くもない

翌日は昼食終了と同時に逃げ出した

先生は昨日と同じ時間に来て空振り

ところが夕飯の食器の音と同時に現れたところを狙ってきた

これはどうしようもない

 

昨日と同じ 怒鳴る声が増えただけだ

意味のわからないことを何度言われてもどうしようもない

これは抵抗しているわけではない

わからないのだ

ほかのことと違う

ゲームみたいなのを覗き込むことがいやなわけがない

ただ 反抗もしていないのにやたら叱られる

 

蠅;まえは何をやらせてもダメだ

  言うことを聞かない

  両方の目を使え

  どうしようもないヤツだ

   だめなヤツだ

 

極力逃げることにしよう

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 13 中身がないエレベーター

入院中は本当に良く遊んだ。

何しろ一日中ひまなのだから当然ではある

裏階段は運動場でわたしの占有領域だった

ただ、いつもそこにいると飽きるし見つかってしまう

五階のおじさんの所だって入り浸るわけには行かない

あっちこっち見て歩いた

 

病院の魅力のひとつがエレベーター

用もないのに乗ることを許されていない

階段の運動とは別にこれはこれで興味がある

飽きるほど乗って上がり下がりをしたい

どうなっているかも見てみたい

 

ある日エレベーターのドアが開いていた

へんだ

ドアが開いているのに中身がない

好奇心に火がついた

絶好の機会である

逃したら二度とない

そーっと エレベーターに近寄る

空っぽだ

さすがに怖いから 数歩前で腹ばいになり

ハイハイで空っぽのエレベーターへ

覗き込む

 

奈落の底 と言うのはこういうのだろうか

底が見えない 

ずっと下のほうに一ヶ所明るい光が差している

1階かな それとも地下かな

今度は首を回して上を見る

上も真っ暗だな

 

看護婦;なにやってるの

悲鳴が聞こえた

甲高く叫ぶだけでこっちに来ない

きっと怖いんだ

 

看護婦;こっちに来なさい

はったまま下がり すっと立って従う

この行為は叱られても仕方がない

 

エレベーターには近づかない約束をさせられた

蠅先生じゃないし

悪いこととは十分承知しているので素直に約束した

それ以降ドアが開いているのに中身がないことはなかったし

エレベーターにも一人で近づかなかった

 

もう十分見てしまって用がないし ね

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 12 4号室

病院とは面白いところだ

 

眼科は動ける人が多いのでよくお洗濯をしている

洗濯場のガラスにはお札が張り付いている

今日も紙幣がペッタンコ

紙幣は洗ってしまっても破けないから助かるといって

ガラスに貼り付けて乾かす

乾くとおちるので拾って、またポケットin

当時は「こそどろ」なんていないらしい

自分のブンだけ回収する

ガラスに紙幣が3枚も4枚もくっついている景色は

ふふふーm いい眺め

お洗濯日和にはガラスに張り付いた紙幣をながめに行った

 

入院してすぐの頃 こんな事もあった

 

病院の不思議というか ??に出会った

わたしの部屋は何号室か忘れたけれども

入院初期のころ端から数えて入ったら別な部屋だった

もう一度数えてもやはり自分の部屋にはいけない

どんなに丁寧に数えても行き過ぎてしまう

誰か;病院には4号室がないんだよ

   4はシと読むでしょう 

   死号室じゃ入りたくないからね

もうビックリで面白くて不思議に思った

4は死を連想させるから病院では4号室がない

☆;(じゃ4階もない)

  4号室がダメなら4階もないだろう

  だからここは6階だけどほんとうは5階に違いない

さっそく表階段を一階まで降りて

ゆっくり確認しながら上がってみた

4階は存在する

合点が行かなかい

今でも行かない 

4が縁起が悪いなら

4階を病室じゃなくて集中検査室とか物置にすればいいのに

4号室も当直室とかにして 数の混乱は避けたほうがいい

と考えたりする

そういえば4階は「シカイ」とは言わないっけ

合理不合理 迷信と現実 理解と妥協

 

世の中そんなものだとは 今は理解している。

 

医大 理不尽と生きる知恵 11 死体を求めて

姉は・天才だ

「2月30日」のように 

奇抜で 大人が想像しないようなことを思いつく

私にはとうていそんなセンスはない

のせられる☆は 言いようがない◎!◎ と自覚するのだが

尊敬している姉を懲りずに信じてしまうのである

ちなみに 姉は3才年上である

3才しか年上でない とも言う

 

姉は時々お見舞いにきてくれた

ある時 一緒に一階に下りた

姉は外に行こうとする 私は禁止されている

それに寝巻きにスリッパだ

 

姉;大丈夫だから 

  ちょっと外に出るだけで

  遠くに行くわけじゃないから

少々おどおどしていたら

姉;堂々としていれば何も言われないよ

大きな出入り口の真中を姉が行く

☆;そういうものなのか

そこで堂々と、パジャマとスリッパのままついていった

 

姉と病棟のすぐ外を少し歩いた

姉;ほら、あそこのね 

病棟の地下室を指差す

☆;うん、

  手術室のあるところ

姉;あそこの4番目の窓 わかる

☆;4番目?

姉;そう、ほとんどもぐってて 窓が少しある部屋

☆;うん、わかるよ

姉;あそこはね、解剖室でね

☆;解剖室?

姉;そう。解剖室

☆;何をするの

姉;死体を切って人間の身体がどうなってるか見るところ

☆;へえ

姉;だから死体が置いてあって

☆;たくさんあるの?

姉;ズラーっとならんでる

☆;見たい

姉;あの部屋は見えないようになってる

☆;そうか

 
姉と楽しい時間を過ごして部屋に帰った
 
あきらめられるわけがない

みたい 絶対みたい

 

日を改めて 堂々とパジャマのまま、

スリッパのまま、一人で外に出た

とがめる人はいない

 

姉と話した場所に行って地形を確かめる

そばにも近寄れそうもない

表通りも寝巻きとスリッパで堂々と歩いて

ぐるっと病院を回り 別な方角から 建物に近づいた

ここなら見えるかもしれない

 

建物の周りは変わった地形と建て方で

簡単には地下室はのぞけない

建物にそった細いコンクリの突起を眺めて

 

「いけるだろうか・・」

建物に引っ付きスリッパを脱いで 

一歩  「やばいかな」

一歩  「チットむりかな」

ルパンやラピュタの世界だ

そのころはそんなものは知らないけれど

 

早々(数歩)にあきらめて 戻ろうと思うが

行きより帰りがどうしようもない

膝が曲がると身体が壁から離れてしまう

しかし、戻らないと困る

慎重に 壁にますます引っ付いて

無事戻った 

もしかしたら奇跡かもしれない 

背中を壁につけたほうが動きはいい

でもそれじゃ窓の中はのぞけない

そんなことを学んだ・・・学ばなくていい

 

しかし 解剖室はあきらめられない

なんとしてでも見たい。

「そうだ 中から行こう」

危ない外よりも 中からのほうが楽なはず

手術室のある地下室は行きたくないけど

この際そんなことは言っていられない

 

日を選んで (休日の朝で看護婦さんが忙しい時間) 

地下に下りた

誰もいない

 

さあ 4番目

「一つ・ふたつ・三つ・・・?」

戻る

「一つ・二つ・三つ・・・ない」

4っつ目の部屋がない

4っつ目の窓は手術室の前で広いだけだ

 
だまされた! とやっと気がついた

 
それでもまだあきらめがつかない

なんとしても死体が並んでいる部屋を見たい

もしかしたら手前の部屋かも知れない

一部屋ずつのぞいてみることにした

どの部屋も机があるか 何もないかだ

 

どうしよう 戻ろうか

手術室と別の方向にも廊下があった

こっちかもしれない

 

暗い冷たい廊下に 鉄の扉が並んでいるようだ

そういう雰囲気だけかもしれない

冷たくて重い空気に 寒気を感じる

いくのを断念した

 

何の音も聞こえない地下室は人の行くところではない

もちろん運ばれてくるところでもない

やっぱりいやなところだった

誰にも会うこともなく 知られることもなく

解剖室と死体は あきらめた

 

無事でなりより !

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 10 桜ご飯はいただけない

両眼グルグル巻きの状態は退屈でながーい、時間

だったはずなのにそれほどでもない

目が開けられるだけで精神は落ち着く

左眼はガーゼなどが入っていないし、目が開く空間があった

外の明るさで包帯が見える

目から5センチも離れていないのでよく見える

包帯の重なり方でできる濃淡模様を眺めていた

 

両眼ふさがれていたのは一日だと思う

翌日には手術した右目に立体にできた眼帯だった たぶん

食事はまだおかゆ、

山盛りの白いおかゆにうめぼしと+?

うめぼしは赤くてきれいだ

おかゆに混ぜてみた。

ああ、なんてきれいなんだろう

桜色に染まったおかゆはいかにも美味しそうだ

その色の美しさに大喜びで

山盛りのおかゆ全部を桜色に染めてしまった

 

つまらないプラスティックの薄緑の器に

もも色の山ができ 桜の花のようだ

ちょうど外はお花見の時期

食べずに美術館賞に浸っていたら叱られた。

看護婦;片付ける時間だから早く食べなさい

仕方が無い。美しい桜の花を一口

☆;まずい

 

見た目とは大違い とてつもなくまずい

桜色のご飯といったら ほら

桜の葉っぱでくるんだ あれ

あれしかないでしょう

見た目がそっくりになったとたん

わたしの頭は桜道明寺になっていた

看護婦;速く食べなさい

☆;いらない

看護婦;食べなかったら見てもらわなくちゃ

☆;?

看護婦;具合は悪くないのね

☆;うん

何を言われているかちんぷんかんぷん

看護婦;だったら速く食べなさい

そういわれたって 吐き出すほどまずい

 

母がやってきた。

看護婦さんになにやら言われたらしく

母;さっさと食べちゃいなさい

☆;美味しくない

母;自分でこんなにしたんでしょう。食べちゃいなさい

☆;そうだけど 美味しくない お母さん食べて

母;あなたの食事でしょう 

☆;まずい

母;自分の責任でしょう

  まずいからって押しつけるものじゃない

   看護婦さんが来るから ガマンして早く食べちゃいなさい

手伝う気はさらさらない と伝わってくる

そんなまずそうなものいらない とも伝わってくる

何しろ一口、口に入れるとムカーッと吐き気が襲う

昼までがんばってどうにかほとんど全部食べずにすんだ。

お昼は美味しくいただいたし

一日中桜道明寺で頭がいっぱいで ひまな記憶がない

 

食べ具合だけで体調を判断しようというのが間違っている

どうしようもない、 予想外のことだってありうるんだから

あの桜道明寺風ご飯が 道明寺の味なら

おかわりがほしいくらいだったはず

 

うめぼしのご飯がまずいというより

想像した味とあまりにかけ離れていただけだった

 

桜道明寺色のご飯は二度と作らないけど

「美味しい」梅干も 梅干のおにぎりも好き

 

 

 

医大 理不尽と生きる知恵 9 麻酔ミス

肺活量の後、何日か楽しい日が続いた

次の日すぐ手術ではなかったということになる

 

ある日朝食が無かった

手術するとは聞かされていない

当然逃げるからだろう

;あれ?何でご飯が無いんだろう

といやな感じだ 危ない

思ったときには看護婦さんが部屋にきていた

逃げ出す必要性を考えるひまさえなかった

ベッドから下りることを禁じられ

あっという間に注射を打たれ 動くのがだるい

ボーっとして逃げる気も起きない

自分の部屋をただただボーっと見ながら 

時間が進むのすらぼんやりでわからない

父か母がいたに違いないのだが、その記憶もない

灰色の部屋と窓から見える空だけが見える

 

時間の経過は青い空だけが知っている

数人の先生や看護婦さんが来た

着替えたが身体は動かす気力もない

されるがままに着替えて抱かれて別なベッドに移された

頭だけが半分眠って生きている

 

また注射をされる 

板の上に乗せられた

そのまま部屋を出てエレベーターに乗った

エレベーターの天上をボーっと見た

蛍光灯がついている

ボタンをしたから見ると違う場所のように見えて

「エレベーターは面白い」と記憶に残っている

 

地下室の明るい窓が見えた

嫌だと思う気力がない

大きな鉄の扉は開いていて止まらず進んでいく

手術室に入るあたりで記憶は終わった

 

目がさめたのはいつかわからない

わたしの記憶以前に騒動があった

 

病室に戻って両親がそろって付き添っていたとき

呼吸困難を起こした

父はすぐ医者を呼ぶ

眼科の蠅、と麻酔の担当医が来て

 麻酔が強すぎた 

 そっちがわるい 

 いやそっちのせいだ 

患者そっちのけで責任のなすりあいをはじめた という

 

父;患者が苦しんでるのにおまえたちは何をしている

他人には温厚な父が怒った。

めったに怒らない人が怒ると迫力があるものだ

医者はあわてて処置にかかった という

 

麻酔が強すぎて喉に傷がついたと、後で大人が話していた

私は呼吸困難さえ記憶にないのだから、わからないが

この医者の態度は何十年もずーッと後まで耳たこほどの語り草となり

まるで私が起きていて 見ていたかのように記憶に焼き付いている
 

目がさめたときには鼻にゴム管が通っていて

くさくてたまらなかった

違和感もひどいし とろうとしたら手を縛られてしまった

その後何度も眠ったり目がさめたり

目がさめるたびにゴム管が気になって記憶に焼きつき

ずっと起きていたように思うが、そんなことはあるわけない

ほとんど寝ていたはずだ

 

翌朝の診察はぞろぞろたくさんの足音とともに

向こうから(私が行くのではなく)やってきた

包帯を外し最初に見えた顔が 白髪のやさしい顔

この顔は いい

見えるかどうかとか いくつか聞かれて

また包帯をして終わった

医大 理不尽と生きる知恵 8 楽しむ医者たち

いくらなんでも病院だ

平和な日がそう長く続くわけがない

月曜日が手術で火曜日が絞られ、

水曜木曜と隠れ

金曜日は朝からつかまった

朝から姿を消したのは土曜日ということになり 

あまり意味がなかった気もする

 

月曜日か火曜だろう、朝食の直後から監視がついた

ひまなしに声を掛けられるので出られない

仕方がない、6階で遊んでいた

看護婦さんに呼ばれ診察室に行く

ほんとうに、仕方がないから ドアを開けて入った

 

(ここでの;医者;は蠅以外の三人をさす)

4人もおんなじカッコをした先生がいる

全員白衣に黒のズボン

担当医がいるかどうかわからない

医者;こっちに来て ここに座って

蠅じゃない、違う声だ

ほっと安心しておとなしく座る

医者;「口を大きく開けて」

普通の内科検診 普通に受ける

 

医者;これに口をつけて息を吐き出してみて

水が入った箱の前に座った

これはなんだ? 面白そうだ!

☆;ふーっ

医者;もっと大きく息をして 全部吐いてみて

☆;フーッ!!!

なにやらおおぎがたのものが息を吐くと上がってくる

面白い 面白い

頼まれもしないのに 「ふーっふーっ」

医者;あっ やんないで 一回だけでいいから

☆;ふーっ

医者;1000いかないな

蠅;これじゃまた手術できないじゃないか

あの声だ。いたんだ。いやーな予感がした

蠅;おまえ下手だな。かして見ろ

蠅;ブーッ あれ やりすぎたかな

医者;4000超えたぞ。戻らないぞ

医者;おまえ壊したんじゃないか

みんな楽しそうに笑いながら機械をいじっている

じっと見る

なんて面白いものだろう

どうして上がってくるんだろう

医者;もう一回やってみて

蠅;一回だけだぞ

☆(わかってるよ、)

  ふーっ

医者;9**、出ないな。しかたがないか

蠅;おまえはへただな。ハイ こっちに来て

 

となりに移る

蠅;これをこう持って 思いっきり握ってみて

☆;グーッ!

医者;「これ・・10だぞ。」

蠅;ホントに下手だな。貸して見ろ、こうやるんだ

  ググー

医者;40、おまえ加減しろよ

みんな楽しそうだ。

もう一回やっても結果は同じだった

 

蠅;次はこれを引っ張って

今度持ち出したのは自転車の空気入れみたいなものだ

☆;んー!!!!!?? 上に上がらない

蠅;もういい 行っていい

 

ふーっと上がるの もっとやりたい 

こういうのならいやみなど気にならない

いつも姉に自慢されてなれになれている

姉はちゃんと面倒を見てくれるところが違う

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

蠅先生は大違いだ。

先生は4000とか40とか4が好きなんだ

  ・・・病棟には4号室がない・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

午後はまた5階でおやつとおしゃべり

ちゃんと私が行くのを待っていてくれる

裏階段を数回往復してちょっと早めに戻った

表から堂々と看護室の前を通る

看護婦;☆ちゃん 具合悪いの

☆;? なんでもないよ??

看護婦;まっかな顔してるから 熱測ろう

☆;走ってきたから

看護婦;走って?走ったらダメでしょう

☆;・・・・(だって イイヤ、無言が一番)

看護婦;病院なんだから静かにしてなきゃいけません

☆;・・・・(病気じゃないもん)

看護婦;とにかく真っ赤な顔してるから熱を測りなさい

☆;はい

だから見つからないようにしていたのに・・

ついつい油断をするとこうなってしまう

走れば顔に出るなんて考えもしなかった

それ以降 階段の運動会の後は息を整え落ち着かせ

忙しい夕食の時間まで6階にはもどらず

極力 看護婦さんには合わないようにした

もちろん退院まで 自由の身である限り階段は走りつづけた

 

姉に鍛えられた精神力は

この病院生活で十分に発揮され、磨かれた

その上、自力で活動することも身に付けてしまった

もっと言うと 大人に見つかるリスクとか

「約束」の使い方や

隠す、隠れる 逃げる技術とか 

誰と仲良くするとお菓子が手に入るかとか

どんな態度が大人に人気があるか とか

見えていない階段を駆け下りる方法も

色分けすると居場所がわかることも

 

いいことも

7歳には余計なことも

一月の入院でたくさん身に付けた

実りの多い経験には違いない