医大 理不尽と生きる知恵 3

第2話 入院

☆は新しい言葉が大好き らしい。

入院ってどんなだろう 

入院も検査も手術も、どれもこれも新しい言葉に浮かれてしまう

はじめての遠足

はじめての海

初めての学校が、とてもよかったから

初めての幼稚園の記憶が薄れていた

 

思い返せば、父と行った「はじめて」はろくなことがない

いいことの記憶が消えるほど ひどい目にあった

たくましくはなった

社会勉強 と 言えなくもない

 

家から歩いて 

今の足なら15分ほどの距離に医大がある。

朝、父に連れられ出かけた。

検査のために何度か通っていたから慣れたものだ。

その日はいつもの入り口と違うところから入った。

天井が高い、こんな天井の高い建物に入ったことがない

それに広くて暗い、

めいっぱいきょろきょろして珍しい建物を観察した。

私がよそ見することはいつものことで

手をしっかり握ってぐいぐい引っ張られて歩く

周りに夢中になっているうちに

父は受付を済ませ、

エレベーターに乗って病室についてしまった

 

眼科は6階。一番上だ。

エレベーターを降りると広い空間と真正面に階段がある

広い空間から左に伸びる廊下は細く長く暗い

何号室かは覚えていないが 東側の真中へんだった。

大人ばかりの8人部屋。

この部屋の中で少なくとも3回は引っ越している

誰かが退院すると ベッドの移動がある

動けない患者は角とか 考えがあったのだろう
 
「子供か」

最初に聞こえた声だ。決して喜んではいない。

父が周りにあいさつする。

当然一緒にあいさつしたのだろう、記憶はない。

あたりまえのことはあたりまえにやっているはずだ。

なぜ記憶がないかというと

はじめてみる病室というものに夢中だったからだ。

大きな部屋に白いベッドが並び

どのベッドにも寝巻きを着た人が乗っている。

窓は大きく部屋はそれほど暗くない。

6階だから空しか見えない

 

父はまもなく帰っていった。

その日はおとなしくしていたことだろう

いくらなんでも・・・。

周りの人とおしゃべりをしたり、

メいっぱい愛想を振り撒いて 

お菓子をちょうだいしたに違いない

病院で飢えた記憶は手術後くらいなものだから。

 

午後になって担当医が来た。

二人できたと思う。

「こんにちは。虻先生です。」とか何とか

「こっちにおいで」と手招きしたらしい

このときにほんのわずか違和感を感じた

私には見えなくて、挨拶して帰っていくのかと思った。

先生が後ろを向いて出て行くのを見ていたら

部屋の人が「診察だから行っておいで」

と声をかけてくれた。

そういえば、先生の手が動いたような気がする

 

先生の跡を追い看護婦さんの部屋の前を通って

西日が入ってとても明るい診察室に入った。

例のごとくきょろきょろして部屋を観察するのに夢中で

診察はいつもと同じでどうでもよいし、

特に変わったことはなかった。 

虻先生もごくごく普通に優しい先生だった。

 

 

 

 

 

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